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IR起点の企業変革

東証「PBR1倍要請」は単なる数値目標じゃない。価値創造IRを実装し、投資家と企業の評価軸を同期せよ

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評価軸から逆算する「価値創造IR」の4ステップ

チェックリスト2|設計力の確認

  • 自社の過小評価要因(ミスプライス要因)を言語化できている
  • 成長戦略とKPI、資本配分の関係が一貫している
  • 投資家が置く評価軸を前提に説明できている
  • IRが「資料作成」ではなく「論点設計」を担っている  

 価値創造IRの実践は、「何を語るか」というアウトプットの検討から始まるのではありません。まず投資家がどの評価軸で自社を見ているかを把握し、その前提をそろえることから始まります。具体的にはPDCAサイクルを回しながら、以下の4ステップを実践することが重要です。

Step1:評価ギャップ(ミスプライス)の診断

 最初に取り組むべきは、市場が置いている前提と経営の認識との「ズレ」の特定です。

 特に重要なのは、WACC(加重平均資本コスト)などの株主資本コストの把握です。景気変動の影響を受けにくいディフェンシブセクター(具体的には食品、薬品、インフラなどの業種)ではよく、自社の資本コストを市場平均(10%程度)より低く見積もっているケースが見られますが、設備投資や新規事業への投資判断基準が緩くなりがちです。その結果、市場から「収益性が不十分」と見なされる、ミスプライスを招くことがあります。マーケットが自社に求めている期待リターンやリスクの認識を客観的に診断することが、バリュエーション改善の基礎となります。

Step2:価値ドライバーと検証可能なKPIの設計

 評価軸が特定されたら、次にそれを「事業系KPI」と「財務系KPI」のつながりとして構造化します。

 非財務の取り組みや事業系KPI(顧客数、単価など)は、最終的に「投資家が求める利益」や「長期的な利益見通し」といった財務系KPIとの関連性を示すことで、より投資家の理解を得られやすくなります。特にM&Aや先行投資などで一時的に財務系KPIが悪化する局面では、「この投資が将来的にどのように財務に接続し、価値を生むのか」という、説得力のある説明を構造的に提示する必要があります。そこでは完璧な定量化ではなく、検証可能なKPI設計を目指すことが重要です。

Step3:ストーリーと開示の設計

 投資家が「一貫している」「説得力がある」と感じるストーリーを構築するには、情報開示の順番と「評価されやすい情報構造を意識すること」が鍵となります。

 まず伝えるべきは、北極星(企業の目的地)です。つまり経営理念やビジョン、あるいは中長期的なタイムラインで目指す方向性(市場成長への取り組み、グロース戦略など)です。IPOによる資金使途などもここに含まれます。次いで、企業の強み。上記の目的地に向けて、競合他社よりも高い業績を残せる根拠(競争優位性)です。そして、リスクと市場環境。外部環境を踏まえた事業の持続可能性です。ここでは未達時の考え方も含めて提示することが重要です。

 これらに関して一貫性を持って語ることで、投資家はその企業の将来のキャッシュフローに対する確信を深めることができます。

Step4:経営への組み込みとサイクル化

 投資家との対話(IR)を単なる定期報告で終わらせず、経営課題として共有するためのポイントは、IRをPDCAサイクルの中核に置くことです。

 IR部門には、ステークホルダー(市場関係者)の意見を吸い上げ、それを経営戦略やIR戦略に反映させる役割があります。投資家との対話を通じて得られた市場のフィードバックや評価軸の情報を経営陣に還元し、それを経営会議のアジェンダとして消化する。その示唆に基づき、KPIや資本配分方針を修正し、次の対話でその進捗を再検証する。この循環を回し続けることが、IRを経営機能として機能させる鍵となります。

次のページ
“経営機能”として価値創造IRを実装する

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この記事の著者

礒野 慎司(イソノ シンジ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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