価値(value)と値段(price)は、差が大きい方が良い
ここで、価値(value)と値段(price)は必ずしも同じではない、ということが重要なポイントです。バリュエーションは、「バリューを示す」という言葉の通り、価値を説明する手法です。価値を説明する方法ですから、唯一絶対の答えを出すものではなく、意見を示しているものなのです。
もっともらしく数字が示されていても、数字を作っている人が想定した前提によって、全く違った数字になることに十分に注意する必要があります。したがって同じものを評価していても、価値はそれぞれの企業・人によって差が出てきます。
たとえば、ある事業を必要としている企業にはその事業は価値が高く、その事業を不要としている企業には相対的に低い価値となるはずです。値段は売り手と買い手の合意点ですから、価値と値段が異なることが取引のきっかけとなるわけです。
有価証券のように大量に取引されているものは、価値と値段が近づきやすいのですが、価値と値段が大きく異なる可能性があるものは「レア物」です。図3のように、「レア物」では、売り手と買い手の大きなwin-winが成立する可能性があります。ここでは「儲け=価値と値段の差」と定義しました。
値段は交渉によって決まりますから、売り手と買い手の双方にバランスよく儲けが配分されるとは限りません。しかしまず必要なのは、自分にとっての価値を把握することです。自分にとっての価値が把握できていなければ、得をしているのか損をしているのかわかりませんから、不利な値段交渉をしてしまうおそれがあります。つまり、バリュエーションは儲けを考えるための重要な出発点です。
戦略投資では、投資額を「値段」と考える
何だか金融の話題のようで、事業会社には関係ないのではと感じられたかもしれませんが、事業会社にも大いに関係のある話です。戦略投資も投資ですから、「儲け」=「価値」-「値段」が成り立ちます。戦略投資とは何かについては、「企業の新たな成長の柱となることを目指す新規事業・R&D・設備・M&A等への投資」と連載第1回で定義しました。この戦略投資で支払う、新規事業立ち上げ、製品開発や設備投資等の投資額が、値段です。
戦略投資の成功、つまり儲けを大きくするためには、価値と投資額(値段)の差が大きくなるように努力するということになります。投資額(値段)は自分で支払う金額なので、自分で確定することができるものです。投資額がわかった後は、儲けを考えるためには、価値を知ることが必要です。価値を示すのがバリュエーションですから、戦略投資の儲けを考えるためにもやはり、バリュエーションは重要な出発点となります。
戦略投資にこそ、バリュエーションが重要
戦略投資にとってのバリュエーションには、金融投資のバリュエーションよりも、更に重要な役割があります。それは、「価値を測ることによって事業改善のための努力・工夫を促す役割」です。戦略投資は多くの人がその事業に関わり、価値最大化のために日々の努力・工夫を積み重ねていくものです。どうすればより大きな価値をその事業から達成できるのか、価値が損なわれるのは何が問題なのかなど、バリュエーションから様々な示唆が得られます。価値の尺度が欠けていると、「とにかく頑張ることが大切だ」というようなゴールの見えない努力を続けることになりかねません。
バリュエーションは様々な手法がある奥深い分野ですが、戦略投資の意思決定に欠かせない業務として、ますます重要性を増していくでしょう。戦略投資に直接は関係ないように思われるファイナンスの知識は、このように役立つわけです。