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戦略投資とファイナンス

戦略投資のファイナンス-NPVの良い点、悪い点

第3回

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便利なNPVの5つの注意点

NPVの注意点1:単純化し過ぎるため、説明不足になりがちである

 「NPVが嫌い」という経営者は結構たくさんいます。それは、計算結果だけが伝えられることが多いことが一因です。戦略投資のバリュエーション(NPVの計算)では、費用・売上・時間・競合など、実に多くの様々な変数を使うにもかかわらず、NPVはすべての計算結果をまとめてシンプルに一つの数値として示します。これはNPVの長所でもあるのですが、説明不足になりがちで、経営者からはブラックボックスに見えてしまうことがあります。NPVは計算結果に過ぎませんから、なぜその計算になるのかを、ロジックとデータで十分に説明する必要があります。

NPVの注意点2:過去を見過ごす甘い採算管理を誘発

 NPVの計算では、一般的には過去の投資は計算に含みません。投資の意思決定が目的であれば、この計算は間違いではありませんが、採算管理が目的であれば、回収しなければならない過去の投資を通算する必要があります。回収しなければならない過去の投資が考慮されていない案件をよく見かけますが、採算管理が甘いと言えます。

NPVの注意点3:目標管理に向かない

 NPVは現在価値ですから、今日計算したNPVと一年後に計算するNPVは、その一年間の収支によって変わってきます。したがって、時間の推移とともにNPVは変わってきますので、目標管理には向きません(できないことはないのですが)。代わりに、いつも同じ時点から(たとえば、常に2013年から)計算する、という変則NPVが目標管理に役立ちます。なぜ変則かというと、常に2013年から計算するとすれば、2013年以降に計算するNPVは現在価値ではなくなるからです。この変則NPVは、弱点2で指摘した採算管理にも役立ちます。

NPVの注意点4:ファイナンスのテクニックに走ると、本質を見失う

 NPVはファイナンスの分野で生み出された評価指標なので、勉強をし始めると、ファイナンスの深いところへのつながりが垣間見えてきます。たとえば、割引率をどう考えるか、リアルオプションを使えないかなど、興味深いトピックがいくつもあります。しかし、戦略投資は企業の新たな成長の柱となることを目指す新規事業などが中心です。本質的に重要なことは、どうしたらその事業が成長するかであって、評価方法ではありません。ファイナンスのテクニック以前に、ビジネスプランニングを重視すべきです。

NPVの注意点5:仕事をした気になってしまう

 何のためにNPVを計算しているかが忘れ去られてしまうと、NPVを計算することが仕事になってしまいます。実際にいろいろな企業で観察される問題です。「戦略投資にこそ、バリュエーションが重要」(2ページ目)で書きましたが、戦略投資には、努力と工夫で改善できること、あるいは、失敗を避けるためにやらなければならないことがたくさんあるのです。

 戦略投資の意思決定時にNPVが高いというのは、マラソンで良いスタートを切ったぐらいのものです。適切に給水してライバルに負けないように常に目を配らないと、棄権したりレースに負けたりする羽目になってしまいます。実際の事業では、走るべきコースなど用意されていませんから、なおさらスタートしてから先が肝心です。NPVを計算した後、何が成功要因なのか・失敗要因なのか、事業行動にフィードバックし、目標達成までサポートすることが大切です。

 以上、戦略投資の意思決定になぜファイナンスの知識が役立つのか、さらに、ファイナンスの知識を活用して得られるNPVの注意点をご紹介しました。NPVの注意点は、実際にはNPVそのものの問題ではなくて、使い方の問題という側面があります。

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戦略投資にはビジネスプランが重要

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この記事の著者

小川 康(オガワ ヤスシ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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