認知が広がり始めたHRBP、課題は「型のなさ」
Biz/Zine編集部・栗原茂(以下、栗原):土井さんは長年、日本におけるHRBP(Human Resource Business Partner)の普及に尽力されていますが、そもそも「HRBPとは何か」という定義について、土井さんはどのようにお考えですか。世間では「戦略的人事」や「事業部の御用聞き」など、解釈が分かれている部分でもあります。
土井哲氏(以下、土井):私はHRBPの本質を、「事業リーダーの意思決定を支え、戦略を組織能力へと翻訳するフォロワー」だと定義しています。ここで誤解してほしくないのは、「BPは戦略そのものを作れる必要はない」ということです。
栗原:「戦略を作れなくていい」というのは、少し意外な気もします。
土井:戦略の立案はあくまで事業トップの役割です。HRBPに求められる価値は、トップが打ち出した(あるいは打ち出そうとしている)戦略に対して、以下の2点にコミットすることにあります。
- 「実現への覚悟」を持つ: 単なるアドバイザーではなく、その戦略の実現に自分も運命共同体としてコミットする。
- 「気づき」を与える: 批判的思考(クリティカル・シンキング)を駆使して、「その戦略は本当に妥当か?」「実行体制に抜け漏れはないか?」と問いを立て、リーダーの盲点を突く。
ロバート・ケリー教授が提唱した「フォロワーシップ」の類型で言えば、目指すべきは「模範型フォロワー」です。リーダーの指示に盲従する「順応型」でも、批判するだけで動かない「孤立型」でもない。建設的な提言をしながら、組織のために自らも汗をかく。この姿勢こそが、事業リーダーから「お前がいないと困る」と言わしめる信頼関係の土台になります。
栗原:池側さんと進めてきた「FP&A連載」が非常に好評で、経営管理の重要性が浸透してきた手応えがあります。今回はその「人事版」となる存在としてHRBPに注目します。土井さんから見て、現在の日本企業におけるHRBPの浸透度をどう捉えていますか。
土井:ようやく認知が広がり始めた、という段階ですね。日立製作所さんのように5年以上前から「人事は事業の成長に役立つべきだ」と明確な意志を持って導入している先進事例はありますが、多くの会社はまだ「型」がないまま手探りです。
私は1997年にインヴィニオを立ち上げ、当初はプロフェッショナル人材の育成に注力していましたが、長年続けていく中で「個人の能力を高めるだけでは、会社は良くならない」という壁にぶつかりました。研修で元気になったリーダーが現場に戻ると、既存の「組織文化」に飲み込まれてしまう。この組織文化の壁を打破し、戦略を確実に実行に移すための仕組みを探していた際、2019年に米国の「アラインオルグ・ソリューションズ社」と出会い、戦略と組織能力、さらには組織文化を連動させる「アラインメント(整合)」の重要性に辿り着きました。
東京大学経済学部卒業後、米国MITスローン経営大学院にて修士号(M.S.)を取得。東京銀行(現・三菱UFJ銀行)、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、ベンチャー企業支援コンサルティング会社を設立。1997年に株式会社インヴィニオを創立し、代表取締役社長に就任。現在は、事業戦略と人材戦略の連動、タレント・インテリジェンス・システムの構築、独自の能力開発アセスメント(タレント発掘)の支援など、戦略が求める組織能力開発に従事している。2019年より米国アラインオルグソリューションズ社と提携し、HRBP育成プログラムの国内導入やバーチャルHRBPサービスを展開。2021年・2022年には日本CHRO協会主催「日本版HRBP研究会」の座長を歴任。2025年からは、戦略・組織・人材を連動させる手法を学ぶ「HRBP/アライメント・リーダー養成講座」をスタートさせている。
池側千絵氏(以下、池側):外資系企業では30年も前から、各部門にHRBPがいて、経営会議にも参加し、人の配置や組織のあり方まで事業部長にアドバイスすることが当たり前でした。
日本でも近年、HRBPという言葉が広まりましたが、私がFP&Aの導入支援やHRBP研修に立ち会って感じるのは、結局、変革が起きるかどうかは「チャンピオン(強力な推進者)」がいるかどうかです。日本企業への機能実装という意味では、数年前まではFP&AよりもHRBPのほうが進んでいる印象もありましたが、今やFP&Aのほうが一気に追い抜いた感じがありますね。
