戦略と現場を人・組織につなぐ「HRBP」──パナソニックグループが挑む事業に寄与する「組織開発」とは
ゲスト:パナソニック ホールディングス株式会社 戸島奈央氏、穂積慎一氏
従来の「トラブル対応」から事業を勝たせる「戦略人事」へのシフト
加藤:本日のメインテーマである「HRBP(Human Resource Business Partner)」について伺います。パナソニックにおいてHRBPはどのように定義され、従来の「事業部人事」と何が異なるのでしょうか。
2017年に『組織は変われるか』(英治出版)、2019年にスタンフォード大学ビジネスケース「AGC Inc. in 2019」(共著)、2020年に『両利きの組織をつくる』(共著、英治出版)を発表。エグゼクティブ・コーチング、サクセッションプラン策定、戦略実行支援などに従事。『両利きの経営』の提唱者オライリー教授が会長を務めるChange Logic社の東京駐在を兼務。多摩大学CSM教授、IESE Business School客員教授。経営ケース研究所を英治出版と共同設立。著書に『HRBP──戦略実行を支援する人事』(英治出版)。
戸島:当社では現在、HRBPを「事業にアラインした人事戦略の企画・実行を通じた事業貢献とエンゲージメント向上を実現する存在」と定義しています。
従来の事業部人事との最大の違いは「戦略性」にあります。従来の事業部人事は、本社で決まった制度や既存の仕組みを正しく運用することや、発生したトラブルを解決することが中心でした。それに対しHRBPは、未来の事業戦略から逆算し、人材の需給ギャップ解消や起こすべき変化に対して事業部長らの経営者とともに手を打ち、伴走する存在です。
加藤:なぜ日本企業において、またパナソニックグループにおいて、従来の制度運用型人事からHRBPへの転換が必要となったのでしょうか。
穂積:歴史的な背景として、2000年代に「戦略人事」が提唱された当初は、人事機能の集約(シェアードサービス化)によるコスト削減や人件費抑制の視点が強かった側面があります。
しかし2010年代後半以降、世の中的にも「人的資本経営」の考え方が浸透し、人を「コスト」ではなく「付加価値を生む源泉」と捉える潮流へと大きくシフトしました。激変する市場環境において、未来視点で「次にどのような人材を採用・育成し、配置すべきか」を先取りして組織を変革しなければ、事業自体が立ち行かなくなります。人事自身が変革のドライバー(駆動役)になる必要性が高まったことが背景にあります。
戸島:特にパナソニックにとって決定的な契機となったのは、2022年の「事業会社制」への移行です。各事業会社が独立した事業体として自立し、顧客と向き合って「事業を尖らせる」ことが求められるようになりました。事業戦略を勝たせるための最大のレバレッジ(テコ)は「人」であり、事業ごとに最適な人材ポートフォリオを構築する必要が生じたことで、HRBPの役割が明確化されたのです。
パナソニックが定義する「人事の4類型」とHRBPの役割
加藤:事業会社制への移行にともない、全社共通の仕組みから事業ごとの最適な組織設計へとシフトしたのでしょうか。パナソニックにおける現在の人事組織の役割分担について教えてください。
戸島:現在、グループの人事機能を明確に「4つの類型」に分類して運用しています。
- HRBP(HR Business Partner):事業にアラインした戦略パートナー。事業の機会とリスクを見極め、人材ポートフォリオや人事戦略の実行、チェンジエージェントとしての組織・カルチャー変革を担う。
- CoE(Center of Excellence):高度な専門性を持ち、グループ全体の価値最大化に向けた先進的な人事制度・施策の設計や高度なソリューション提供を行う。
- OpEx(Operational Excellence):人事業務プロセスの徹底的な効率化・高度化(シェアードサービス)を推進し、従業員体験(EX)の向上を実現する。
- DAE(Data Analytics Expert):ピープルアナリティクスやDXを専門に扱い、人事にまつわる意思決定のデータとファクトに基づく人事の意思決定を推進する。
加藤:運用の効率化(OpEx)や専門制度の設計(CoE)を切り離すことで、HRBPが事業戦略に集中できる環境を整えているのですね。HRBPの日常的な動きや1年のマネジメントサイクルはどのようになっているのでしょうか。
戸島:目標設定・評価、サクセッションプラン(後継者計画)に基づくタレントプールの選定、昇格決定といった年間を通じた「人事マネジメントサイクル」の運用がベースとしてあります。
これに加え、HRBPに強く求められているのが「変革型リーダーの早期発掘・登用」や「事業戦略を実行するための組織開発」というプロジェクト的なアプローチです。単なる業務運用にとどまらず、事業の成長を加速させるための人事に時間を割くことが期待されています。
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