なぜ日本企業は「戦略の変化」に組織として対応できないのか
Biz/Zine編集部 栗原茂(以下、栗原):日本企業では「戦略はあるが実行に落とし込めない」という課題が叫ばれて久しいと思います。なぜ多くの日本企業で戦略実行が止まってしまうのか、加藤さんが現場で感じられているリアルな危機感からお聞かせいただけますか。
加藤雅則氏(以下、加藤):先日、ある大手日系企業の事業本部長から、「戦略を変えたのに組織がまったくついてこない」という切実な相談を受けました。非常に象徴的な話です。
詳しく聞くと、彼は事業戦略の大幅な刷新に合わせて組織体制を変えようとしたものの、本社との調整に膨大な時間がかかり、人を動かそうとすれば「玉突き人事」が発生してしまう。誰かを引っ張ってくるには代わりに誰かを自部署から出さなければならず、調整だけで理想の実行チームを作るのに1年から1年半もかかってしまうというのです。
一方で同じ日に面談した外資系の事業責任者は、着任すると即座に自分の右腕・左腕となるチームを編成。必要な人材が社内にいなければ外部から採用し、目指す方向に合わない人には降りてもらう。このダイナミズムの差を痛感しました。日本企業は戦略を変えても、組織のサイロ化によって足踏みしてしまうのです。
2017年に『組織は変われるか』(英治出版)、2019年にスタンフォード大学ビジネスケース「AGC Inc. in 2019」(共著)、2020年に『両利きの組織をつくる』(共著、英治出版)を発表。エグゼクティブ・コーチング、サクセッションプラン策定、戦略実行支援などに従事。『両利きの経営』の提唱者オライリー教授が会長を務めるChange Logic社の東京駐在を兼務。多摩大学CSM教授、IESE Business School客員教授。2026年に経営ケース研究所を英治出版と共同設立。著書に『HRBP――戦略実行を支援する人事』(英治出版)。
栗原:経営陣がどれほど綺麗な戦略を発表しても、現場の「人」が動かない構造ですね。
加藤:まさにそうです。私には大きな原体験があります。約10年前、とある大手メーカーの会長に、戦略コンサルティングファームや広告代理店も交えて準備した「中期経営計画・案」をお見せしました。その際、「それで、人は動くんか?」と問われたのです。名経営者からのその一言に、私は返答できませんでした。綺麗なお題目を用意しても、そこに「従業員がどう動くか」という視点が欠けていた。その悔しい体験が私の原点にあります。
2019年頃からの「両利きの経営」ブームでも同じ現象が起きました。両利きの経営に取り組み、成果を出した企業と立ち消えになった企業で二極化しています。提唱者のタッシュマン教授・オライリー教授が強調していたのは、「日本企業は『知の探索・知の深化』にばかり関心が向かい、『組織カルチャーの変革』までに到達していない」ということでした。
ここで言うカルチャーとは抽象的な社風などではなく、「日々の仕事のやり方・進め方」です。既存事業と異なる探索事業をやり切るには、新しいやり方やそれを実現する人材など、「組織アラインメント(整合性)」を変えない限り、変革の実装はできません。



