本記事は『イノベーションが起きる組織 ヒト・モノ・ビジョンで断絶をつなぐ「媒介のデザイン」』(著:神谷 泰史)の「第1章 1.2 なぜ、組織は「新結合」を殺すのか」から抜粋したものです。掲載にあたって編集しています。
なぜ、組織は「新結合」を殺すのか
前節で述べたFFEを、なぜ多くの企業は乗り越えられないのでしょうか。その答えは、組織に構造的に埋め込まれた「断絶」にあります。
この断絶には、以下の4つの種類があります。1つずつ見ていきましょう。
- 断絶1:知と知がすれ違う「既存知×新しい知」
- 断絶2:不確実性を管理しすぎる「FFE×管理」
- 断絶3:深化が探索を締め出す「探索×深化」
- 断絶4:正しさが腹落ちに変わらない「変革×納得感」
断絶1「既存知×新しい知」──同じ言葉でも意味が違う? 知と知のすれ違い
前節で見たように、イノベーションは既存の知と知の「新しい組み合わせ」から生まれます。ところが組織では、組み合わせるべき知同士が、うまく噛み合いません。
たとえば、エンジニアとデザイナーと企画担当者が同じ会議に集まったとしましょう。「デザイン」という言葉一つでも、エンジニアには「仕様」、デザイナーには「造形」、企画担当者には「コンセプト」に見えます。同じ会議室で議論しているのに、全員がバラバラに違う問題を解こうとしている。同じ言葉が、立場によって違う意味を帯びているのです。
異なる専門や部門は、それぞれの文脈の中で言葉を使います。だから、ここで言う「新しい知」は、世の中で最新の知という意味ではありません。顧客の生の声も、隣の専門分野の言葉も、よその業界では当たり前の技術も、まだ自分たちの言葉に翻訳されていなければ、その組織にとってはすべて「新しい知」です。その境界を越えて意味をすり合わせない限り、新結合の素材は手元にあっても結びつきません。これが、知と知がすれ違う最初の断絶です。
断絶2「FFE×管理」──見えない市場を既存の物差しで測る
FFEは、「何をつくるべきか」「誰に届けるのか」という問いさえ定まらない、本質的に曖昧で不確実な段階です。ところが多くの組織は、この段階をも、確実性を前提とした管理の物差しで測ろうとします。
市場規模を問われても、その市場はまだ存在しません。投資回収を問われても、確かめる方法がまだありません。確実な事業を効率よく回すための物差しを、不確実なFFEにそのまま当てると、アイデアは形になる前に終わってしまいます。
不確実なものを、確実なものと同じ基準で測ろうとする。この物差しのズレが、2つ目の断絶です。




