断絶4「変革×納得感」──「総論賛成・各論反対」を生む、現場の“腹落ち”の喪失
会議では「その通りです」とうなずいていたメンバーが、その場を離れると途端に熱量を失い、実際には誰も動かない。そんな経験はありませんか。
これは、論理的に正しいと言われても、感情的に「腹落ち」していないときに起きる現象です。人は、正解の見えない曖昧な状況に置かれると、出来事に自分なりの意味を与え、納得できる筋道をつくろうとします。組織心理学者のカール・ワイクは、この「腹落ち」をつくる営みを「センスメイキング[4]」と呼びました。頭で理解しても行動が変わらないのは、このセンスメイキングの不在。つまり、正しさが、まだ各自の意味に変換されていない状態なのです。
[4] K. E. ワイク, 遠田雄志・西本直人訳 (2001).『センスメーキング イン オーガニゼーションズ』文眞堂.
組織とは、メンバーが「これは正しい」「これは自分たちの仕事だ」という共通の意味づけを共有しているシステムです。しかし、新結合は、異質なものを持ち込むことで、この安定した意味体系を揺るがします。
「なぜ、忙しいのに新しいことをやる必要があるのか?」
「それは私たちの仕事なのか?」
現場のメンバーにとって、文脈のつながらない変革は、単なる混乱やノイズでしかありません。
多くのイノベーション活動が、現場の「総論賛成・各論反対」という無言の抵抗によって頓挫します。変革の方針そのものに反対する人はいません。しかし、いざ自分の部署から人員を出す、自分の仕事のやり方を変えるという「各論」になった途端に足が止まる。それは、この「意味の断絶」が放置されているからです。
あなたの組織は大丈夫? イノベーションを阻む「4つの断絶」セルフチェック
あなたの組織には、ここまで見てきた4つの断絶のうち、どれが最も深刻に存在しているでしょうか。それぞれの断絶に対応する問いを用意しました。日々の仕事の場面を思い浮かべながら、確かめてみましょう。
□(1) 既存知×新しい知の断絶 同じ会議で、部門や専門が違うメンバー同士が、同じ言葉を使いながら全く違う意味で理解していることはありませんか?
□(2) FFE×管理の断絶 あなたの組織では、新規事業に既存事業と同じ評価基準が適用されていませんか?
□(3) 探索×深化の断絶 新しいアイデアを提案すると、「その根拠は?」「前例はあるのか?」と問われ、議論が止まってしまうことはありませんか?
□(4) 変革×納得感の断絶 「総論賛成・各論反対」で、結局誰も動かない経験はありませんか?
1つでも心当たりがあるなら、それは「断絶」のサインです。心当たりが多いほど、複数の断絶が重なって動きを止めている可能性が高くなります。
既存の組織構造のままでイノベーションを起こそうとするのは、物理的につながっていない電気回路に電気を流そうとするようなものです。どんなに電圧を上げても、断線した回路に電流は流れません。それどころか、無理にかけ続ければ火花が散り、回路そのものを傷めてしまいます。組織も同じです。成果につながらない号令の繰り返しは、現場に疲弊と冷めた空気を残します。
だからこそ、私たちに必要なのは、電圧を上げること(=「ハッパをかける」こと)ではなく、まず回路をつなぐこと、すなわち「媒介」のアプローチです。




