AIが爆発的な進化を遂げ、さらには量子コンピューターという「人類最後の武器」が現実味を帯びる中、企業の存在意義や社会の目指す目的はどう変わるのか。2026年9月4日に開催された「Hitachi Social Innovation Forum 2026 JAPAN」より、「量子・AIの先端技術で新たにみえてくる『価値』」と題したパネルディスカッションの様子をレポート。登壇者は、京都大学で哲学を教えながらビジネス界とも協働する出口康夫氏、AIの力で人の意志の実現を目指すシナモンAI代表取締役社長CEOの平野未来氏、そして日立製作所で量子コンピューティングのプロジェクトリーダを務める水野弘之氏の3名。モデレーターは日立製作所の白澤貴司氏が務めた。テクノロジーの最前線から、アイデンティティの喪失、そして「人間が生きる意味」という深淵な哲学まで広がるセッションの模様をお届けする。
AI・量子・哲学の先駆者が問う「見失われた価値」
白澤貴司氏(以下、白澤):本日は「量子AIの先端技術で新たに見えてくる価値」をテーマに議論を進めます。ご自身の取り組みと現在の問題意識をお話しいただきます。
出口康夫氏(以下、出口):私は哲学の立場から参加していますが、なぜ日立さんを始めとするビジネスの方々が我々哲学者のドアを叩くのか。それは今、人類社会が「自分は何のために生きているのか」というアイデンティティクライシスに直面しているからだと思います。これまで社会の価値観は国連など外部から与えられていましたが、今は自ら考えなければなりません。日々の身体行為に方向性を与える「価値のベクトル」が、今まさに迷子になっています。
平野未来氏(以下、平野):シナモンAIは「AIの力で人の意志を実現する」というパーパスを掲げています。AIが進化しても「これをやりたい」という意志を持つことはできません。だからこそ人間が意志を持ち、現場のデータを組織の「知」へと昇華させる「ナレッジループ」を回すことが、企業の持続的成長の鍵になると考えています。
水野弘之氏(以下、水野):私は日立で量子コンピューターの研究開発を進めています。これは人間が考えうる最強のコンピューターであり、人類が手にする「最後の武器」になるかもしれません。できることが飛躍的に増える中、技術をどう社会に実装していくのか。私としては、量子コンピューターでできることを増やし、皆様の「選択肢」を広げることが一つのミッションだと考えています。
“効率化”の先にある、テクノロジーの本当の価値
白澤:AIが広がることで、会社の存在意義や社会の目的はどう変わるのでしょうか。また、技術開発がもたらす本当の「価値」とは何だとお考えですか。
平野:会社においても「意志」がすべてです。昨年の時点でAIはIQ150に達し、ほぼすべての人類より頭が良くなっています。何かをやりたいと思えばAIが実現してくれる時代だからこそ、「意志をクリアに持っているか」が問われます。意志が濁っていては、どれだけ努力しても前に進みません。
出口:平野さんのおっしゃる意志は、私の言葉で言えば「価値」に置き換えられます。利便性と効率性を追求してきたテクノロジーですが、今やそれだけでは足りません。環境価値や、人々のハッピーネス、ウェルビーイングを最初からデザインに入れていく必要があります。当たり前すぎて見えてこなかったものを言葉にして、みんなでシェアすることが求められています。
水野:新しい技術によって可能性の幅は確実に広がります。ただ、技術開発の価値を問われたとき、一番万人受けする簡単な答えは「効率化する」というものです。量子コンピューターも「効率化します」と言えば通りが良いのですが、本当にそれが良い価値なのか悪い価値なのかはニュートラルな問題であり、なんとなくそこで議論が止まってしまうことに普段から課題を感じています。効率化された先で何を描くかは、ユーザー次第なのです。
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