資本主義の単一指標を脱し、揺れ動く「多元的な価値観」へ
平野:AIの進化速度と今の資本主義の組み合わせは非常に相性が悪いと感じます。資本主義の中で競争しているため、効率が良く儲かる方向へ誰も止めることなく進んでしまいます。人間とAIの違いを重視する中で、今後はどのような考え方が必要になるのでしょうか。
出口:資本主義では同じ土俵で競争するため、点数化による一つの評価基準しか存在しません。それを「多元的」にすることが不可欠です。我々は実存のベルトコンベアの上で、使命感に燃えるときもあれば、疲れて新橋の赤ちょうちんでくだを巻くときもあります。リニアに直線的に進むのではなく、複数の物語を抱え、その間をスイングしながら螺旋的に進んでいくのが人間です。点数に換算できない多元的な仕組みを取り戻すべきです。
水野:まさにそのとおりで、一人の人間の中でも、家にいるときの価値観、会社で仕事をしているときの価値観など、複数の価値観が共存しています。そうした多元性を踏まえてどう意思決定していくかが、これからの時代のおもしろさだと思います。
平野:多元的であることは、自分が一つの評価軸から外れたときの失敗も受け入れられる「優しい世界」につながりますね。変化の激しい時代には、その多元性こそが社会に即しているのだと深く腑に落ちました。

AIがサイエンスを担う時代、人間は「アート」を体現する
白澤:最後に、登壇者の皆様からメッセージをお願いします。
平野:これからは「どういう風に生きたいのか、どんな意志を持っているのか」をクリアにすることがすべてだと考えています。本日の対話を通じて、それが多角的に伝わっていれば嬉しいです。
水野:量子コンピューターは最強の武器ですが、理論的に「計算できる問題」と「解けない問題」の境界の際まで来ています。いよいよ、その「計算できない世界」が価値を生む時代になります。そのど真ん中にいるのが我々人間や社会であり、改めて価値を問い直す時代になったと実感しています。
出口:医療が客観的な「サイエンス」であると同時に、患者と向き合う「アート(技芸)」であるように、我々の人生もその二つが混ざり合っています。機械的にできるサイエンスの部分をAIが担うようになれば、我々がAIと対話しながら生み出す「アート」の部分がより色濃く浮き上がってくるはずです。我々は広い意味でのアーティストや芸人として、AIとの違いを発揮していく。それは決してディストピアではなく、良い方向へと向かっているのだと考えています。
白澤:多様な価値観と、人間らしさの違いを見つめ直すことが、新たな技術の価値につながるのだと確信できました。本日は貴重な議論をありがとうございました。
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