有限な時間を生きる人間と、永遠のAIの決定的な違い
白澤:効率性の先にある価値を考える上で、人間にとっての価値をどう定義づけていくべきでしょうか。
出口:AIと人間の違いを考える一つのとっかかりは「時間」です。AIは電気がある限り、疲れを知らずに働き続けます。しかし人間は必ず生まれ、成長し、老化して、死に向かう「実存のベルトコンベア」に乗っています。無限の持ち時間があるわけではないのです。だからこそ、病気や災害といった阻害要因を乗り越え、この旅を全うすること自体に価値が生じます。
平野:人間とAIで時間軸が違うというお話は非常に共感します。AIは永遠の時間を持ちますが、私たち人間は時間が限られているからこそ「どう生きたいのか」を問わざるを得ません。
出口:おっしゃるとおりです。全員が自動的に最後まで行けるなら、それは単なる事実であり価値にはなりません。したがって、ショート動画のような短期的な行動中毒を助長するAIは、全うする姿勢を損なうという意味で「悪いAI」です。逆に、失敗してもレジリエンシーを発揮させ、もう一度ベルトコンベアに戻る手助けをするようなAIこそが、技術に埋め込むべき真の価値だと考えています。
自分の意志を研ぎ澄ます「ソクラテスAI」と「禅問答AI」
平野:私は自分自身が「どうありたいのか」という意志を明確にするため、AIと頻繁に対話をしています。「私はこうしたいと思っているが、本当にそうなのかわからない。クリティカルな問いを投げかけてほしい」と、AIに“ソクラテスの産婆術”の役割をお願いするのです。するとAIは鋭い質問を返し、何十回とやり取りをするうちに、自分の願いが嘘だったのか、本当だったのかに気づくことができます。
白澤:AIを使って内省を促し、意志をクリアにされているのですね。研究開発の現場において、水野さんはどのようにAIと向き合っていますか。
水野:研究は可能性の探索なので、AIとの相性は非常に良いです。ただ、迎合させない工夫が重要で、私はあえて「違う意見を10個言ってみろ」と指示しています。そうやって深く掘り下げていくと、より新しい展開が出てくることがしょっちゅうあります。「AI for Science」と言われるように、サイエンスのための良きパートナーです。
出口:ソクラテスAIもおもしろいですが、さらにその向こうを行く「禅問答AI」の可能性も感じます。ソクラテスは質問者の前提を揺さぶりますが、禅問答は正しい・間違っているの次元を超え、我々が乗っている「有意味性の地平」そのものをひっくり返すようなナンセンスな問いをぶつけてきます。そうしたAIが、今後人間にとって深く重要なパートナーになると思います。
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