なぜ今コーポレート・アクセラレーターが求められているのか
なぜ今、オープンイノベーションの最先端手法「コーポレート・アクセラレーター」の方法論が注目を浴びているのか。その理由を知るためにはまず、インキュベーターとアクセラレーターの違い、そしてアクセラレーターについて知っておかなければならない。Luke Deering著『ACCELERATE』では、インキュベーターとアクセラレーターはこのように定義されている。
「インキュベーター」は、ベンチャー企業育成のための物理的な施設であり、「スタートアップ・ジム」と表記される。一方で「アクセラレーター」はベンチャー企業の事業を成長させるためのプログラムであり、「スタートアップ・ブートキャンプ」と表記される。
「ブートキャンプ」と言われても、馴染みがない上にピンと来ないかもしれない。わかりやすく例えるならば、アクセラレーターは、ライザップである。一定期間内で目標を達成するために、起業家に対して急成長を可能とするプログラムを提供するのがアクセラレーターだ。
次に、アクセラレーターの詳細をみていく。アクセラレーターの特徴として挙げられるのが、まず営利組織で運営されていること。そしてアメリカでは1回のアクセラレータープログラムには約10チームほどが参加し、1社あたり平均240万円程度の出資を受ける。トップアクセラレーターの支援になると、最大1800万円の出資をベンチャー企業が受けることもあるが、傾向としてはシード期からアーリー期、つまり事業の立ち上げ初期のベンチャー企業への出資がメインとなる。
プログラムの運営期間は約3ヶ月で、ベンチャー企業は期間中に投資家からのメンタリング(起業経験者による助言)や、研修、教育セミナーを受けることができる。プログラムの最後には、成果発表会(DemoDay)が設定され、出資を行ったアクセラレーターだけではなく、VCや他の投資家を呼んで、ピッチイベントを行う。ここまでの一連の流れがアクセラレーター・プログラムである。
シード期のベンチャーを支援するシード・アクセラレーターとして有名なのは、過去にAirbnbやDropboxを育てたことで知られるアメリカのYコンビネーターだ。日本でも2010年以降、Samurai Incubate、MOVIDA JAPAN、Open Network Labなどのシード・アクセラレーターが登場し、盛り上がりを見せた。
しかし今、Yコンビネーターはシード期、アーリー期の支援ではなく、ミドル期、レイター期の投資を行うようになり、アクセラレーターが新しい形を模索しつつある。そこで増えているのが、大手企業とベンチャー企業の共同事業開発をアクセラレーターが積極的にコーディネートし、プログラムを提供する動きである。これが本稿で主に扱う「コーポレート・アクセラレーター」だ。