「新しい顧客の時代」とサービスデザインの必要性
Forrester Researchによると、現代は「新しい顧客の時代(the Age of the Customer)」と呼ばれる。顧客は変わらずマス的な消費を続ける一方で、自分が関心のある特定の領域にはこだわった情報収集と消費活動を行うようになった。そして、このような「生活スタイル全般を自らコーディネートすることを前提にしたうえで多様化していく顧客の時代」において、ビジネスの現場では顧客の多様性に呼応したサービスの展開が求められている。
そういった中で注目されているのが「顧客体験をベースにして、商品・事業を開発・展開していく」というデザインの思想「サービスデザイン」だ。
この問題意識はマーケティング理論の領域での「グッズ・ドミナント・ロジック」から「サービス・ドミナント・ロジック」への移行にも呼応している。
いままでは、企業が顧客に対して提供するのは「モノ」であるという考え方が支配的であった。企業が提供する「モノ」と顧客の「お金」という価値交換の原理を基礎とする論理的な思考、これが「グッズ・ドミナント・ロジック」だ。しかし、近年では「サービス・ドミナント・ロジック」という思考への転換が見られている。
「サービス・ドミナント・ロジック」とは、提供するものと顧客の間でつくられる体験を意味のあるものにする、という考え方だ。この考え方では、「モノ」だけでなく、その先の顧客のモノの体験を含めた「サービス全体の価値」を企業の提供価値として考える。その思考から生み出されたサービスは、顧客体験をベースにしながらさらにサービスの価値を向上していく。このような考え方への移行が近年見られている。
わかりやすい例は「カーシェア」だ。Times Car PLUSなどのカーシェア・サービスは、車の「所有価値」を「体験価値」へと転換することに成功している。例えば、ペーパードライバーが、リハビリを兼ねて利用する、などといったサービス利用。また、車の試し乗りや祝事の際に利用する、といったニーズを捉えた「高級車限定のカーシェア・サービス」などがはじまっている。このように「体験価値」に焦点を当ててビジネスを展開することで、利用顧客のさまざまな潜在的ニーズを発見し、サービス価値の向上が行われている。