実践者と研究者、脳科学から都市経済学までを横断する
佐宗:
近年、ビジネスを含めて社会における問題を解決するにあたり、日本でもイノベーションやクリエイティビティ、デザインなどの重要性がよく語られるようになりました。それらが大事であることは誰もが感じていて、キーワードもいろいろと出ています。
私は、「ビジネスとデザインの交差点」という、デザインイノベーションに関するFacebookページをやっているのですが、そこのトピックとしてもデザイン思考はもちろんのこと多様性とか、イノベーションエコシステムとか、オープンイノベーションなどのキーワードが出てきています。最近では、マインドフルネスとか、共感、レジリエンスなんて概念も注目を浴びてきていますね。
とはいっても、いろいろな出自があり、どれも断片的ですよね。そこで「経営学のフロンティア研究」に取り組まれてきた入山先生との対談、ゲストを迎えての鼎談を通じて、少しでも全体像に迫れないかと考えています。
入山:
私も長らく同じ課題感を持っているのですが、なかなか挑戦的な企画になりそうですね。でも、研究者としてアプローチしてきた私としては、組織の中と外で実際にデザインをビジネスに活用してきた佐宗くんと対談することで、どこまで行けるのか、どんな発見があるのか、大いに興味があります。
佐宗:
ありがとうございます。そこで事前に二人で少し論点整理をしました。イノベーションという半球の全体を捉えるために2つのアプローチができるかなと考えています。1つは、どこまでわかっていて、最先端では何が起きているのか、ミクロで論じられているものをマッピングすること。そしてもう1つ、それを大きなフレームワークに整理し直すことでしょうか。
入山:
そうですね。いろいろと整理してみると、これらの関係はある意味レイヤー構造になっている可能性がありますね。たとえば、イノベーションやクリエイティビティというと、どうしても「人やチーム」、「企業」などを思い浮かべますが、実はもっと大きな概念、たとえば「都市や場のデザイン」や、「エコシステム」といった体系も関係しています。
一方、人間のクリエイティビティは脳から生まれてくるわけで、「脳科学」などの分野でも研究がなされています。そんなふうに各分野で様々な人々が研究しているわけですが、問題はここからです。
新しい概念やキーワードが登場すると、世の中は一気に飛びつき、傾倒しがちです。それを繰り返していては瑣末な部分だけを渡り歩くことになり、全体を掴めずに終わってしまうでしょう。
脳科学などの生理学から、個人、コミュニティや組織、企業、社会、デザイン、システムまで、各レイヤーにおける研究をまとめ、レイヤー同士の関係性を見出していくことが、全体の把握につながるように思います。