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人工知能社会論からの考察

AI時代のイノベーションは「学際領域」から生まれる―「人工知能社会論」からの考察

第1部:人工知能社会論とは何か?(第2回)

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「人工知能社会論」を構成するHELPSとは?

 私とAI研究者である理化学研究所の高橋恒一氏は、AIが与える社会的な影響を理系研究者の側からのみではなく、人文社会系の研究者も積極的に関与すべきだと考え、2015年2月に「人工知能社会論研究会」(AI社会論研究会)を立ち上げた。「AIが社会に与える影響」について議論する会で、月に一回ほど会合を行っている。

 「人工知能社会論」というのは私の作った造語で、「科学技術社会論」という言葉を模している。便宜上「社会論」と一語で言ってはいるが、AIの場合には、「哲学」(Humanity)「経済学」(Economics)「法学」(Law)「政治学」(Politics)「社会学」(Sociology)といった多様な観点からのアプローチが必要である。高橋氏は、これらの頭文字をとって「HELPS」と総称している。

 1990年、人の遺伝子情報解明を目指す「ヒトゲノム・プロジェクト」が始まった時に、個人の遺伝子情報の扱いなどの社会的な問題を慮って「ELSI」という言葉が作られた。これは、「Ethical, Legal and Social Implications」(倫理的、法的、社会的諸問題)の頭文字をとった造語である。
 「ヒトゲノム・プロジェクト」では実際に、年間予算の5%が「ELSI」の研究のために費やされた。これ以降、生命や医療などの大型研究プロジェクトでは、そういった研究を人類の公益に即した方向へ進めていくために、「ELSI」に予算が割り当てられるようになり、人文社会科学者に活躍の場が提供された。

 「HELPS」は「ELSI」にちなんでいるが、AIが社会へ及ぼすインパクトは、遺伝子工学よりも広範囲に渡り得るので、「ELSI」を拡張した「HELPS」の観点が必要なのである。哲学的、経済学的な問題については前回にて触れたが、例えば「セルフドライビングカーのための法整備」については法学が、「AIの軍事利用」については政治学が、「AIの普及による社会構造の変化」については社会学が、それぞれ必要とされるだろう。

 人文社会科学者の知見は、既に政策の現場で求められ始めている。昨年から幾つかの省庁がAIをめぐる問題を討議する会議を催している(例えば、総務省が開催する「ICTインテリジェント化影響評価検討会議」)。そうした会議には、私も含めAI社会論研究会に属する人文社会科学者が何人も参加している。
 しかし、どの会議へ行っても似たような顔ぶれで、人材が枯渇していると言わざるを得ない。日本では、AIの先端的な研究を行い得る人材が不足しており、すぐにでも育成に取り組まなければならないが、それとともにAIについて論じられる人文社会系の研究者も育成する必要がある。私と高橋氏は現在そのための準備を行っている。

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この記事の著者

井上 智洋(イノウエ トモヒロ)

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