事業構造改善の一方で財務体質は悪化をたどる
日立は、00年代に入り事業構造の改編を行ってきたが、事業構造改善費用などにより財務体質は悪化している。98年度の赤字転落まで自己資本比率は順調に上昇していたが、赤字転落して以降、右肩下がりに下降し、90年代に30%を超えていた自己資本比率はリーマン・ショック時の最も厳しかった08年度には、11.2%を記録する。その後、09年度の増資、10年度の利益回復によって15.7%まで戻し、直近15年3月期では23.66%まで回復しているが、同様に社会インフラ系事業を行っている三菱電機や富士電機の直近の自己資本比率が30%以上となっていることを考慮すると、財務体質の改善が引き続き必要と言えるのではないだろうか。
■株主資本比率
さらなる事業再編と海外事業強化を目標に掲げる
日立はバブル経済崩壊以降、20年以上に及び事業改善を行ってきた。そして、その成果がようやく財務諸表に現れ始めた。ただ、いっそうの継続的な成長のためには、事業の柱に据えている社会イノベーション事業や情報・通信システム、産業・交通・都市開発システム、電力システム、これらの融合分野および材料・キーデバイスの分野の強みを生かした収益事業の強化がこれからも求められる。
日立は事業再編の一環として、15年から研究開発の組織体制を刷新している。国内外の複数の研究拠点を3つの統括本部およびセンターに集約した。目的は、研究者が顧客とともに課題解決のソリューションをつくるという、顧客起点型の研究開発体制を確立することにある。これまでも研究者が顧客と連携することはあったものの限定的であり、継続的な活動はできていなかった。
この再編により、米州、欧州、中国、アジアの4地域に総代表を据える組織体制を築き、各地域の市場や顧客ニーズを踏まえた経営判断が行えるようになった。また、今後の海外事業を強化するため、社会イノベーション事業の海外展開を加速させることを計画しており、直近15年2月にはビッグデータ分析ソフトウェア会社の米国・Pentahoの買収を発表している。
20年以上におよぶ苦しい時代を乗り越えて事業改善を続けてきた日立は、日本のほかの電機メーカーが苦戦する中、見事に業態転換を図ってきたといえる。しかし、完全に復活したと言い切るのには成果が不十分であり、収益力だけでなくさらなる財務体質の改善、社会イノベーション事業を核にした今後の経営戦略がどのように展開されていくか期待される。
この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。
本記事は、M&A Onlineに掲載された記事を再編集して掲載しております。
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