とりわけ新しい“中央管理者不要”のプロトコル
前回整理した3大要素、すなわち「データの連結」「情報資産とエンティティの紐付け」「P2P」はブロックチェーンの大きな特徴であり、どこに魅力を感じて活用するかはユーザー次第である。実際、「情報資産とエンティティの紐付け」により、使い方によって、情報の登録管理からデジタルコンテンツの流通、エネルギーの取引まで、様々なユースケースが考えられる。
しかし、あえてここで長期的な経済への影響を考えると、、興味深いのは第3の要素、「P2Pによる管理者不要のアーキテクチャ」「P2Pでのデータ管理」である。この中央管理者不要という側面は、第1回目の記事でも紹介したArcade City、Open Bazaar、Colonyなどの事例でも見られた「DAO(Distributed Autonomous Organizations)」を実現している特性だ。「ウィキノミクス」などの著書で知られるドン・タプスコットらは、近著『Blockchain Revolution』において、ブロックチェーンの特性の中で、第三者の仲介なく取引を行えるという点を以下のように強調している。
こんなことは今まで一度もなかった。2つまたはそれ以上の主体の間で、信頼された取引を直接行うことができ、しかもその取引は大衆の協力(マス・コラボレーション)で認証されるとともに、利益を追求する特定の大企業ではなく、各自が利益を追求しようとする集団の力で実現されている。
『Blockchain Revolution』5Pより引用、筆者にて翻訳
この「管理者不要」の経済システムの原型は、すでにビットコインでも実現されている。ビットコインのブロックチェーンでは、先に見たように、一定期間ごとに全世界の取引データを集め、ブロックを作成する作業を行う必要がある。このブロック作成作業を最も早く行えた人には、一定額のビットコインが新規で発行される仕組みとなっている。このビットコインは、誰のものでもなかったコインであるため、金の採掘などになぞらえて「採掘(マイニング)」と呼ばれ、ブロック作成に参加する人を「採掘者(マイナー)」と呼ぶ。このマイナーたちは、取引データが正しく整っているかどうかの確認も行う。
この不特定多数のマイナーたちが分散してこのビットコイン・ブロックチェーンの仕組みを運用している。そして、彼らは誰から指示を受けたわけでもなく、単にマイニングで得られるビットコイン(と手数料)を目当てに、このシステム運用の仕事に当たっているのだ。このコイン生成にまつわる経済性については、また別の機会に詳細を論じたいと思うが、どこかの企業なり組織がシステム投資をしたり、運用費用を払わなくなったりしても、システムを維持する仕組みが作られ、7年近くにわたり運用されているというのが、ここでの「中央管理者不要」の意味だ。
タプスコットらは、こうしたP2Pの特性を持つブロックチェーンが、情報をアグリゲート(集積)するだけの仲介業者をディスラプト(破壊)する可能性があると指摘している。ここでは彼らの指摘を踏まえ、私なりに経済学的な観点、すなわち取引コストとプラットフォームの理論から考えてみたい。