連載・コラム 【出張版】M&A Online

イタンジはなぜ「仲介手数料ゼロ」でも業界から嫌われないのか?

イタンジ・伊藤嘉盛代表インタビュー:前編

[公開日]

[著] 伊藤 嘉盛 [取材・構成] M&A Online編集部 [編] 栗原 茂(Biz/Zine編集部)

[タグ] ベンチャー 事業開発 企業戦略 M&A 不動産Tech

  • ブックマーク
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「赤字200万円+赤字300万円=黒字200万円」実現の裏側とは?

――ノマドの事業を買収したのはどのような背景があったのでしょうか。

 イタンジは以前「ヘヤジンプライム」というインターネット不動産仲介サービスを提供していました。しかしネット完結型仲介サービスで市場シェア2位。一方、アセンシャスが運営するノマドは業界1位の位置でした。

 1位と2位が合併できれば、圧倒的な存在感を示せます。そして規模の面だけでなく、それぞれの弱みを補完できる関係でもありました。

 ヘヤジンプライムのサービスはシステムに強みを持っていました。実際、ノマドの参入より3年遅れをとっていましたが、猛烈な勢いで追い上げていました。ノマドの会員数が3年で約6万5000人だったのに対し、ヘヤジンプライムは8カ月で約3万5000人を達成していましたから。
 しかし、問題点もありました。オペレーション面です。われわれのオペレーターは、押しが弱い傾向があったんです。だからアクセスはあってもなかなか成約に至らない。

 一方のノマドというと、オペレーションが強く、システムが弱い。われわれと逆だったわけです。両方とも当時、月2~300万円の赤字を出しているという大きな問題を抱えていたので、その状況を変える必要性もあったのです。
 8月の事業買収後、そこから3カ月間でシステムを増強し、10月にはヘヤジンプライムのブランドをなくして「ノマド」ブランドに統一しました。
 そこから両社の売上げが1ずつだったとすると、それを合わせた数字の1.5倍、つまり3になりました。利益面でいえば、赤字200万円と赤字300万円の事業を統合した結果、黒字200万円を達成しました。

大成功と思いきや…カベに直面する

――まさにM&Aによるシナジー効果を得られた。大成功ですね。

 いえ、実はもっといけると思っていました。それを阻んだのが「文化」の壁です。この問題が実に難しい。エンジニアが主体のヘヤジンプライムとオペレーター主体のノマドは文化が違ったんです。

 働き方一つとっても文化が全然違う。エンジニアは、はたから見るとだるい感じでパソコンに向かって仕事している。一方、接客するオペレーターは元気で体育会系。休みに関しても、エンジニアは土日は休みますが、逆にオペレーターは土日が忙しい。

 そのため、現場ではお互いの文化に慣れることに時間が掛かり、業務の連携に滞りが生じる場面がありました。また、統合によってヘヤジンプライムのオペレーターが離職するなど組織面での苦難もありました。その反省から、現在は目標管理や評価制度の再構築や個別面談の設定、全社の懇親会を増やすなど組織改革に力を入れています。

――M&Aはメリットもある反面、こうした課題も意識しておかなければなりませんね。

 僕は以前、設立した会社を売却した経験もあります。その際、売却後に多くの従業員が去ってしまったと聞き、非常に後悔の念を感じました。売却先が上場企業というのもあって、どちらが正しいということではなく、経営管理体制や意思決定の仕組みが中小企業とは大きく異なっていたことも原因になっていたと思います。

 また、とくにベンチャー企業の場合、会社が経営者に依存しすぎてしまうという傾向があります。以前の会社はまさにそうで、僕は強いリーダーシップで従業員を引っ張っていました。だから会社が売られて、僕がいなくなったのと同時に、「社長について来たのに」ということで、従業員も離れて行ってしまったのだと思います。この経験によって経営者としての未熟さを痛感しましたし、「会社が継続する本質的な要因とは何か」という問いが生まれました。

 そこで、イタンジでは自分がいなくても回る「仕組み」を重視しています。これは自分が楽をするためではなく、トップダウンの強いリーダーシップを発揮するよりも、あえて従業員の後ろからついていくマネジメント方法をとっています。いわば「羊飼い方式」ですね。トップが指揮命令をしなくても変化に対応できる継続可能な会社をつくるためには、優秀な人が自走できる環境を整え、細かい指示をせずにゴールを明確にすることに注力すべきです。

 さきほどご紹介したFacebook向けのAIチャットサービスは、開発ツールを無償提供するというFacebookの発表から、わずか2日で完成させました。それは、従業員のみんなが「テクノロジーで不動産取引を滑らかにする」というイタンジのビジョンを共有し、ユーザーとのインターフェースの重要性を理解しているからこそできたことであり、自然発生的に組織が変化に対応した事例とも言えます。

バックナンバー