毎日のミーティングが“サイロ型組織”を壊し、多能工チームの組織学習を促す
スクラムの特徴のひとつは、メンバー構成にある。縦割りの組織で機能を分担するのではなく、様々なプロフェッショナルがひとつのチームに集い、学び、助け合いながらプロジェクトを進めるのだ。
また、計画の立て方もアジャイル以前とは全く異なる。ウォーターフォール型と呼ばれる従来の管理手法では、はじめにプロジェクトの最初から最後までの計画を立て、要求定義、設計、製造、テスト――、といった工程を順に進めていく。その方法では、途中で遅れが生じると最後までその影響を免れない(または、遅れを挽回するために無理な働き方やムダなコストをかけざるを得ない)。また、プロジェクトの終了時点まで、ビジネス上の要求を満たすものができているかどうか評価できないといった問題にも直面しがちだ。
スクラムの場合は、プロジェクト期間全体を「スプリント」と呼ばれる短い期間(通常1~2週間)に分割する。そして、ひとつのスプリントごとに、そのスプリント内で完了できるだけの開発内容を計画し、実行し、進捗や品質をレビューする。
ポイントは、各スプリントでやるべきことが最初から決まっているのではないということだ。製品を完成させるために必要なタスクを「バックログ」と呼ぶが、バックログは毎回のスプリントの結果を受けて、追加や変更がなされる。スプリントの始まりでは、蓄積されたバックログの優先順位付けを行い、何を実施するかを決める。そのプロセスには、開発者だけでなくプロダクトオーナーというビジネス面から要求や評価を提示するメンバーも参加するため、チームは真に必要とされるものに向けて進むことができ、無理やムダを避けることができるのだ。
チームは、「デイリー・スクラム」という日次のミーティングも行う。今日は何をするか、どの順番で行うか、誰がやるか、ということを話し合うのだ。サザーランド氏によれば、デイリー・スクラムは「スクラムの重要なエンジン」であり「組織のサイロ(縦割り)を壊し、互いを支援し、理解しあい、一緒に連携を図る場」だと語っている。
氏がデイリー・スクラムの必要性に気づいたのは、ベル研究所が世界中の優秀なチームを分析した論文を読んだときだという。その論文は、チーム内のコミュニケーションがパフォーマンスに影響することを示していた。論文では「コミュニケーションの飽和度が100%」という表現を用いて、「自分がやらなければならないことをみんなが常にわかっている」という状態を示したが、多くの企業は20%あたりに集中している、という。しかし、研究対象となった82のチームのうち最もコミュニケーションの飽和度が高い企業のチームは、他の企業の平均よりも50倍仕事が速かったというのだ。
この論文を読んで、そのチームはなぜこんなに速いのか、コミュニケーションの飽和度が高いのかを話し合い、それが毎日のミーティングによるものだと結論づけました。翌日には、私達も毎日のミーティング、デイリー・スクラムを始めたのです。100%のコミュニケーション飽和度に達するよう切磋琢磨した結果、数週間後にはうまくいくようになりました。(ジェフ・サザーランド氏)