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シンギュラリティ大学がMTP実践で重視する「要素分解」、クレイジーなアイデアの支援

特別鼎談:シンギュラリティ大学 パスカル・フィネット 氏 × 入山章栄 氏 ×佐宗邦威 氏 第2回

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 入山章栄氏と佐宗邦威氏がイノベーションとクリエイティビティを包括的にとらえようとする本連載。今回は、まさにいま注目のゲストに来ていただいた。いま世界のイノベーションを語る上で高い注目を集める米シリコンバレーの「シンギュラリティ大学」。そこで「スタートアップ・ソリューション・バイスプレジデント」を務めるパスカル・フィネット(Pascal Finette)氏だ。  フィネット氏は、今イノベーションを語る上で注目の人物で、2017年9月6日~8日の3日間、日本で開催される、「SINGULARITY UNIVERSITY JAPAN SUMMIT」でも注目が集まる同大学のキーマンだ。アメリカではミレニアル世代の起業家にとってのオピニオンリーダー的な存在にもなっている。ご本人も、Mozilla、Googleなどでイノベーションを主導した経験を持つ。この第二回では、シンギュラリティ大学の主張するMTP(Massive Transformative Purpose:野心的な変革目標)を実現する方法や、イノベーションと市場との関係性などについて伺った。

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MTP実現のために必要な「問題の要素分解」、先が読めない時代に着実に未来を掴む方法

佐宗(biotope 代表取締役社長):
 MTP(Massive Transformative Purpose:野心的な変革目標)という壮大な目標を実現するにあたり、具体的な方法論についてお伺いできればと思います。MTPを掲げた後に大切なのは、先を予測できない指数関数的な成長を想定しつつも、目の前の成長プランに落とし込んでいくことですよね。しかし、ビジョンが大きいと、どうしても具体的なプランが作りにくいというジレンマがあります。どうやったら、大きなビジョンの壮大さを損ねずに、実際のサービスやプロダクトに落とし込むことができるのでしょうか。

パスカル(Singularity University Startup solution Vice President):
 ベーシックな方法ですが、シンギュラリティ大学では「問題を要素分解して考えろ」と教えています。要素分解を繰り返し、これ以上は分解できないところまでいったら、「今やるべきこと」がわかるはずです。

 たとえば、テスラモーターズ社のCEOイーロン・マスク氏は、かつて車のバッテリーについて綿密な計算と調査をしたことを語っています。「電気自動車の普及」を因数分解していくと、とにかくバッテリーの価格を下げる必要があったわけです。当時、バッテリーが800ドルだとすると、大量生産すれば価格は確実に600ドルまで下げられるだろうという試算が出ました。でも彼はこの結果に満足せず、バッテリーの材料から遡って調べたのです。

入山(早稲田大学ビジネススクール准教授):
 CEOみずからですか? まさにMTPに対する“執着性”をもって、粘り強く対応したわけですね。

パスカル:
 彼が率先して調査をしたようですね。まずバッテリーは各種の化学物質と金属製の容器でできていることを調べ、そこから1キロワットのバッテリーを生産するために必要な材料の「量」を計算しました。すると、「その材料費はわずか80ドル」とわかったんです。800ドルのうち材料代がたった80ドルなら、製造工程にコストがかかっているに違いない。そう考えた彼は製造工程を見直し、自社工場で一からバッテリーを作ったのです。すると350ドル程度で調達できた、というわけです。

佐宗:
 すごくわかりやすい例ですね! 大きなビジョンを達成できる条件を、具体的な数字へと「翻訳」していくわけですね。

パスカル:
 Googleが自動運転車を作ったケースも好例です。まず、自動運転車を造るという壮大なMTPを持った。そしてどうすれば実際に作れるかを考えたとき、必要な部品がたくさんありすぎて、多くの人はここで苦しむわけです。そして「不可能」という言葉で投げ出してしまう。でも、Googleは違った。

 彼らはまず、コンピュータの計算能力、ニューラルネットワーク、センサー、ライダー(レーザー光線を使ったリモートセンシング技術)など、必要な部品を挙げました。部品単位ならば、手をつけられるでしょう。ライダーは1台7万5000ドルほどでしたが、過去から費用性能比を推定すると、10年後には5000ドルくらいにまで下がるとわかった。個々の部品の情報を組み合わせていけば、いつごろ車を完成させられそうかが、予測できるわけです。

入山:
 なるほど! 未来まで予測して、できそうなところから手をつけていき、技術が追いついてきたら一気に具現化するということですか。確かに、「技術が登場してから考える」のでは、もはや遅いのかもしれませんね。バスケットボール選手が落ちてくるボールを予測して、その場所に走り込んでいくようなイメージでしょうか。

パスカル:
 そう、それも「けっこうなフルスピード」でね。

パスカル・フィネットパスカル・フィネット氏(Singularity University Startup solution Vice President)

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