大企業における「デザイン・スプリント」による“4つのベネフィット”とは?

【番外編】デザイン・スプリントとは何か?

 デザイン・スプリントとは、人間中心設計のプロセスを、5ステップの短期集中型フレームワークに凝縮したものだ。スタートアップやデザインスタジオによって考案されたこの手法は、大企業におけるプロダクトチームやイノベーションチームを制約の多い構造から解放し、プロジェクトにスピードを与える。今回は、連載の番外編として、デザイン・スプリントとは何かを解説する。

[公開日]

[著] ラファエル・オデ (Designit)

[タグ] デザイン思考 デザイン・スプリント Design Sprint

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 8月のある金曜日の午後4時。そのラボは、カラフルなポストイットとスケッチで埋め尽くされていた。私と一緒に座っている他の6人は、私と同じくらい疲れた様子をしているが、その満足げな顔にこちらもやりがいを感じる。

 わたしは、日本の大手通信企業のエンジニアやプロダクトオーナー、デザイナーからなる小さなチームとの、5日間短期集中のデザインワークを終えたところだった。

 わたしが何よりも驚いたのは、その疲れた顔にも関わらず、すぐに家に帰ろうとする人が一人もいないことだ。この後どのように進めていくのか。どうやって上層部にコンセプトを売り込むか。コンセプト実現のために、テックチームにどう参加してもらえばいいか。そんなことについて、彼らは話し合いを続けている。プロジェクト初期に彼らが見せていた、戸惑ったような態度とは正反対だ。

 私たちがこの5日間行なってきたのは、「デザイン・スプリント」と呼ばれるプロセスだ。これは課題設定からソリューションのテストまでを、ほんの数日で完了させるアジャイルなデザインメゾットである。そしてこのメソッドは、大企業による商品開発のアプローチをあらゆる面で変えてしまうのだ。

大企業がイノベーションに不向きなのは「人材」ではなく「構造」──“山を動かす”には?

 たいていの場合私の仕事は、デジタル革命が生んだ新しいパラダイムに大企業がうまく適応できるよう、サポートをすることだ。元来大企業というのは、つまり……大きな組織である。そして組織の規模が大きいと、物事は複雑になり、フォーカスはぶれ、スピード感はなくなり、柔軟性は低くなり、他者との連携を取らずに仕事を進める傾向が強くなる。

 大企業のプロダクトサイクルは長く、また彼らには実験的なことをする余裕もない。つまり、彼らにテクノロジーと同じペースで変化し続けるなんて贅沢は許されず、新しい消費者行動に対応するチャンスを逃しがちなのだ。

 これは大企業に属する人間自身の問題なのだろうか? わたしのクライアントは、意図的に意思決定を遅くしたり、変化を恐れたり、新しいことへの挑戦を渋ったりしているのだろうか? そんなことはない。むしろ逆だ。彼らはチャンスがあればすぐに新しいアイデアを出してくれる。本当のところ、私は彼らのなかの何人かがもっていた野心や恐れしらずな態度に驚いてしまったほどだ。問題は人ではなく、構造にある。わたしが普段ともに仕事をする大企業というのは、技術や社内政治や官僚的なレイヤーがいくつも重なった、複雑なシステムなのだ。

 企業は、新しいパラダイムに適応できるよう変化し組織を再編成する努力をしている。Designitも、それをサポートしてほしいという相談を受けることが多い。しかし、企業の構造や文化、プロセスを変えるためには、時間と努力、そしてリソースが必要だ。一方で、プロダクトチームやイノベーション部門はその間にも、消費者や顧客により良いエクスペリエンスを提供しないといけない。そしてそれは時として、山を動かすような途方もない作業に感じられる。

 では、プロダクトチームやイノベーション部門はいかにして、大企業の制約のある構造のなかで新しいアイデアを実現させることができるのだろうか? そのための方法のひとつが、ソフトウェア開発の世界から来たこのメソッドだ。

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