現場に寄り添い、真の課題を見極める「エスノグラフィック・リサーチ」
どうしたら顧客を理解できるのか。どうしたら潜在ニーズを掴み、価値を提供するにはどのようにすればいいのか――。
久保隅氏はそうした企業の人々と課題を共有し、様々なアプローチを提案、実践しながら解を導き出してきた。その取り組みのなかで、久保隅氏は「現場を起点にして、徹底的に人を観察する過程から、思わぬ想定しないニーズやアイデアが見つかる可能性を実感している」と語る。
現場での観察や調査、フィールドワークからつぶさにデータを収集し、それらをさまざまな人間に関わる学術的知見やアプローチを用いて分析を行い、本質的な課題を見出していく。
そうした「行動観察」の手法が、「水面下に隠れて見えない潜在ニーズや未共有のノウハウ」を見出すうえで有効であることは、前回のセミナーでご紹介したとおりだ。そこで特に久保隅氏が重要視している手法が「エスノグラフィック・リサーチ」だという。
「エスノグラフィ」とは、エスノ(ethno:民族)とグラフィー(graphy:記述)の意味を持ち、「民族誌学」などと訳される。さまざまな部族の生活に入り込み、文化や価値観、生活様式などを記録する、文化人類学や民俗学などで用いられてきた研究手法だ。この考え方を応用して、消費者の生活の現場を理解するために行動観察の場で活用されはじめている。
文化人類学者であり、IBMで実際にサービスデザインや新サービスの開発などに携わっているBlomberg教授は、その手法としての特徴として「Natural Settings:自然な場で」、そして「Holistic:全体的に」「Descriptive:記述的」の3項目をあげる。研究室に呼んで話を聞くというより、知りたい相手の生活の現場に行って、その現場で見聞きしたものを記述し、全ての生活を対象にするべきだというわけだ。さらに「できるだけ多く厚く記述すること」、そして観察される人に対して「十分な信頼関係を構築すること」などが重要ポイントとなる。