BtoBサービスのCX向上において売り手と買い手が抱える課題とは?
株式会社マネーフォワードは「お金を前へ。人生をもっと前へ。」をミッションに、ビジネス向けクラウドサービス「マネーフォワード クラウドシリーズ」を提供してきた。利益の約85%がサブスクリプションということもあり、継続利用を促すためにCX(Customer Experience)を重視しているという。
そもそもCXとは何なのか、UX(User Experience)とは異なるのか。今井氏は「UXは顧客とプロダクトが接している部分を指し、CXはサポートやマーケティングなどUXの外側にあるすべてのタッチポイントまでを含む」と説明する。つまり、CXの重要性は、プロダクト以外のタッチポイントが多いBtoBにこそ高まるというわけだ。そして、カスタマーサクセスやサポート、営業など、フェーズごとにCXを考える必要がある。
今井氏は、BtoBでCXを良くすることは決して容易ではないと話す。まず開発側の問題として、BtoBのサービスでは自分がユーザーになれないことがある。自分が使えるBtoCのサービスや製品であれば、意見も言いやすく、改善案も示しやすい。しかしBtoBでは専門知識が必要であることが多く、その知識を持つ“ドメインエキスパート”と呼ばれる人の意思が尊重されることが多く独善的に進められがちだ。しかし、当然ながらそこにCX的な観点が抜け落ちると、サービスや製品はできたとしても、ユーザーにとって望ましいものにならない可能性がある。
また買い手側においては、合意形成の問題があるという。個人の意見を反映する場合、一人ひとりの選択は非合理的であっても、総体として合理的な選択になることが多い。その結果、BtoCではUXの良い製品やサービスが受け入れられる傾向にある。
一方BtoBの場合、企業が何かを購入する際には合理的な意思決定をしているはずなのに、非合理に陥ることも少なくないという。たとえば、プロダクトAとプロダクトBを比較する際、項目を並べた、下図のような機能比較表を作成することがある。
この図のような比較表を見た意思決定者はプロダクトAを選択するだろう。しかし、現場では「機能3」が最重要だったとすると、プロダクトAを選択するのは間違った判断ということになる。企業としては合理的な意思決定をしたにも関わらず、現場目線では非合理な選択だったということが生じているのだ。
もちろん、導入後に現場から開発側へのフォードバックがあれば改善の可能性もある。しかし、現場の声は担当者に集約されるので、直接開発側に伝わることは少ないのだ。その結果、導入されたサービスの現場の満足度が著しく低い、ということが度々発生する。そのジレンマが、今井氏がCXについて取り組むきっかけになったのだという。