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「シリアルイノベーター」が切り開く事業創造の流儀

『シリアル・イノベーター』

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シリアル・イノベーターのマインドセット

 本書では、シリアル・イノベーターを説明するうえで、プロセス以上にマインドセットの重要性が強調されています。本書では、シリアル・イノベーターのマインドセット上の特性を「パーソナリティ」「パースペクティブ」「モチベーション」の三つの要素で説明しています。

1:パーソナリティ

 多くのクリエイティブな人に共通にみられる好奇心や曖昧さに対する耐性のパーソナリティに加えて、シリアル・イノベーター特有のパーソナリティとして注目されるのが「システム思考」です。システム思考により俯瞰的にブレークスルー・イノベーションを捉えることができます。

2:パースペクティブ

 シリアル・イノベーターのパースペクティブで注目すべきなのは、技術はあくまで事業や利益の手段である考えている点です。シリアル・イノベーターの多くが、製品が売れ利益を創出しなければならないと考えています。加えて高い倫理性も持ち合わせています。世界をよりよくすることと企業の利益創出がセットになったものの見方をしている点が特徴的です。

3:モチベーション

 シリアル・イノベーターはモチベーションそのものの水準が高いだけではなく、課題を抱えた顧客の存在(外的要因)と未解決の課題に取り組みたいという創造への欲求(内的要因)が強力に相互作用している点が特徴的です。

 シリアル・イノベーターの情熱的かつ純粋なモチベーションは組織内の他の人々にもポジティブに伝播していきます。シリアル・イノベーターのビジョンに共感する人が生まれ、同じ目標に向かって歩む同士として組織内に拡大していくのです。

本書から日本企業が学べること

 本書は限られたケースの海外企業への調査をもとにしたものであるため、すべての要素を日本企業にそのまま適用するのは難しいかもしれません。

 一方で大きな視座でみると、日本企業が直面している課題への示唆もあるように感じます。段階的イノベーションに加えてブレークスルー・イノベーションを大企業において実現する、という点においてはまさに多くの日本企業が直面していることではないでしょうか。

 このような状況にある日本企業が参照できる点は、ブレークスルー・イノベーションにおいて特有に発生する「曖昧な初期段階(FFE: Fuzzy Front-end)」をマネージするということではないかと思います。

 本書において幾度と無く強調されるこの段階での要点は、シリアル・イノベーターである技術者自身が顧客と直接対話し、時には顧客の立場になりきるほどのイマージョン(没入)を経験すること、そしてそこから真の顧客の課題を発見し、理解するという点です。こうした顧客志向の研究開発は日本企業ではまだ導入途上にあるように感じます。

 本書を読むと、本書で述べられているシリアル・イノベーターと似たようなスタンスの同僚のことを頭に思い浮かべるかもしれません。と同時に、もしかするとその同僚は社内では変わり者と思われていたり、必ずしも良い境遇にないことも多いのではないでしょうか。伝統的な組織であればあるほど、シリアル・イノベーターのようなアノマリーな人々を異質な人として排除する傾向にあるかもしれません。

 本書が示唆するのは、真に革新的なブレークスルー・イノベーション創出のためには、そうした人々を排除するのではなく、企業活動の中に積極的に取り込んでいくということが実は企業の利益になるという点なのではないかと思います。異質のマネージメントという観点は、ダイバーシティマネージメントとも同じ文脈にある今後の日本企業の課題の一つではないでしょうか。

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この記事の著者

岩嵜 博論(イワサキ ヒロノリ)

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