資本の好循環
ノーベル経済学賞を受賞した故ミルトン・フリードマンはかつて言った。「民間の自由市場の偉大な美徳は、人の経済的な協力を促すことだ」。市場は、社会の安全・安心・繁栄を高めるさまざまな要素を社会に引き込む強力な存在である。だからこそ、この重要な市場に、タイプの異なるイノベーションが果たす役割を理解しておくことが不可欠である。
市場創造型イノベーションへの投資をつうじ、投資家と起業家は無意識のうちに国づくりにかかわっている。貧しい国の大半の人が該当する無消費者を対象とした市場を創造すると、それは雇用と利益を生み、発展途上の社会にとってきわめて重要な社会資本が整備され、整備された社会資本は次のイノベーションに活用され、好循環を形成する。
市場創造型イノベーションは、よりシンプルで手の届きやすいプロダクトを開発し、かつては買えなかった多くの人が買えるようにする一方で、経済を成長させるための足場も築きはじめている。新しい市場が創造されると、収入が増え、それが学校や道路、病院、安定した政府機能などの資金となり、一時的に困難な状況に陥っても復元できる経済の弾力性が高まっていく。すべての市場創造型イノベーションがフォードのモデルTほどの影響力をもちうるわけではないが、われわれの研究では、小規模なイノベーションであっても国の姿を経済的かつ文化的に転換しはじめることがわかっている。
【前編】を読む
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(目次)
序文
[第1部 市場創造型イノベーションのパワー]
第1章 繁栄のパラドクスとは
第2章 イノベーションの種類
第3章 苦痛に潜む機会
第4章 プル対プッシュ――2つの戦略
[第2部 イノベーションと社会の繁栄]
第5章 アメリカを変えたイノベーション物語
第6章 アジアの繁栄
第7章 メキシコに見る効率化イノベーションの罠
[第3部 障壁を乗り越える]
第8章 イノベーションと制度の関係
第9章 なぜ腐敗は「雇用」されつづけるのか
第10章 インフラのジレンマ
[第4部 イノベーションにできること]
第11章 繁栄のパラドクスから繁栄のプロセスへ
巻末付記 新しいレンズで見る世界
おわりに
謝辞
日本語版解説