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d.schoolの教科書は「ジレンマ」ではなく「解」

『イノベーションへの解(原題:innovator’s solution)』

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フレームワーク批判の不毛-状況によりツールを選別する

 本書で紹介されているイノベーション周辺の知識に限らず、何らかの理論や手法を活用する際には必ず問いかけるべき質問がある。それは「この理論はどんな状況で効果を発揮するだろうか?」というものだ。

 たとえば、イノベーションを実現させる1つの手法であるデザイン思考を考えてみたい。デザイン思考は、多様性のあるチームで新しい社会的価値を創造する際に価値を発揮する。逆に言えば、自分とは異なる経験や知識を尊重し合えないメンバーであれば、多様性が担保されないため成果を出せない。もしくは、既存製品の部分的な改善など、新たな顧客ニーズを想定していない状況でも価値は発揮できない。

 デザイン思考は、グローバル化や知識社会といった社会的文脈を考慮したうえで初めて機能する。たとえば、MBAホルダーとUXデザイナーなど、専門領域や知識体系が異なる人同士で、暗黙知と形式知をバランスよく共有して成果を創造したい時が考えられる。

 理論や手法は、特定の条件を想定されて構築されており、一定の条件が整った時にのみ正しく機能する。イメージとしては、パソコンのOSとソフトウェアのような関係に近い。どれだけ優れたソフトウェアであっても、土台となる環境(OS)に合致していなければ動かしようがない。

理論の効果は状況によって変わる▲図表1 理論の効果は状況によって変わる

 ビジネス書の中には「これさえあればうまくいく」というように、特定の方法を万能ツールであるかのように紹介しているものがある。紹介される手法が新しいものであればあるほど、その中身に期待をする人も出てくるだろう。しかし、一切の状況に左右されること無く、いつでも機能する万能ツールは存在しない。

 新しい理論を知った時に「この理論は、いつでも役に立つ魔法のツールだろうか?」と問いかけるのは避けたい。正しい質問は、「この理論が魔法のように効果を発揮する、限定された状況はいつか?」ということだ。

 以上の点を念頭に置きながら、本書で紹介されている「顧客の用事」という考えを見ていきたい。

次のページ
「顧客の用事は何か」という根源的な問いは、今も昔も変わらない

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この記事の著者

柏野 尊徳(カシノ タカノリ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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