Biz/Zineでは以前、JTBとSTUDIO ZEROが協働し、新規事業アイデアの実証プロジェクトに取り組んだ事例を紹介した記事を公開しました。その記事を補足する形で、新規事業開発を成功させるために不可欠な個人の熱意と経験学習の重要性について解説します。
個人の成長をどう加速するか。熱意の火を灯し、困難を乗り越える
成長の第一歩:熱意という名の火種
一般的に、人の成長、そして新規事業の成功の出発点となるのは、何よりもまず「熱意」だと言われています。どれほど優れた戦略や計画があったとしても、それを実行し困難を乗り越えるには、メンバー一人ひとりの心の奥底から湧き上がる熱意が不可欠であると思います。
熱意は、現状を打破し、新たな価値を生み出すためのエネルギーとなり、私たちを前進させる原動力となります。Biz/Zineにて対談させていただいたJTBの新井明子さんが、自身の過去の経験と「社会の役に立ちたい」という強い想いを胸に新規事業開発に挑まれたのは、まさにその熱意の表れでした。この熱意こそが、未知の領域を切り拓くための、最初の、そして最も重要な一歩だったと言えると思います。
物事に取り組むときの動機を、エドワード・デシとリチャード・ライアンは「自己決定理論」において「外発的動機」と「内発的動機」に分類しました[1]。「外発的動機」が報酬や評価などの外部からのものであるのに対し、「内発的動機」は自らの興味や関心、喜びなどの内部からの要因のことを言います。
プロジェクトを成功させるためのモチベーションを保つためには、この外発的動機と内発的動機の両方の組み合わせが重要であり、この2つは対立するものではありません。

筆者の大企業における新規事業開発の経験から感じるのが、新規事業担当者は「稼がないで遊んでいる」「楽しそうで羨ましい」などと社内から見られることが多く、外発的動機を得ることが非常に難しいということです。だからこそ、新規事業開発系のプロジェクトにおいては内発的動機がより一層重要で、「熱意」がなければさまざまな困難に挫けてしまい乗り越えることが出来ないと考えられます。
ただ、これは新規事業開発にだけ言えることではありません。
なぜならどんな業務においても、外発的動機と内発的動機は両方必要で、新しいプロジェクトや役割にメンバーをアサインする際、私たちは、彼らの内発的な動機に耳を傾け、それを引き出すための対話の時間を設けることが重要です。多くの企業では、既存事業においては業務内容や役割が定型化されているため、個々の動機や想いが置き去りにされがちです。しかし、外発的動機だけに頼るのではなく、メンバーの内発的な動機を受け止め理解し、それをプロジェクトの推進力に変えていくことが、人材育成の第一歩であり、プロジェクト成功の鍵となると私たちは考えています。
私たちSTUDIO ZEROでは上長との1on1において、定期的に「Willは何か?」「プロジェクトで得たい経験は何か?」ということを必ず確認しています。また、やりたいことを自由に提案できる風土作りも重視しており、内発的動機が尊重され、個人の成長につながる組織であり続けたいと考えています。
[1]Ryan, Richard M., and Edward L. Deci. “Self-determination theory.” Basic psychological needs in motivation, development, and wellness (2017).
熱意だけでは乗り越えられない壁:火を絶やさないことの大切さ
熱意を持ってスタートしたとしても、新規事業開発の道のりは決して平坦ではありません。予期せぬ課題や困難に幾度となく直面し、当初の熱意が揺らいでしまうことも少なくありません。プロジェクトの過程では、「こんなに大変だとは思わなかった」「本当にこのアイデアでうまくいくのだろうか」といった不安や迷いが生じ、自信を失いそうになる瞬間が何度もあります。熱意を持つことは重要ですが、それ以上に、そうした困難な状況において熱意の火を絶やさないことこそが、成長を真に加速させるために不可欠であり、そして最も難しいことだと私たちは考えています。
そのため私たちの伴走支援では、新井さんが困難に直面する度に、熱意の源泉となった原体験や「社会の役に立ちたい」という強い想いを改めて共有し、内発的な動機を再確認することを大切にしていました。
熱意の火を灯すことは一人でできるけれど、消えそうな火は誰かと一緒に大きくしたらいい。自信を失いかけた時こそ、原点に立ち返り、内発的な動機を再確認するための対話とサポートこそが、熱意の炎を絶やさずプロジェクトを前進させるために必要だと考えています。
これは社内のメンバーでもできることで、第三者の支援でなくても良いと感じられるかもしれません。これまでの経験から言うと「第三者であることが必須ではない」と思います。とはいえ多くの大企業の新規事業開発チーム内には、新規事業を事業化した経験を持つ人がほぼいないのではないでしょうか。そのため目の前の壁に直面した際に「本当に越えられるのだろうか?」という不安がチームに広がり、各個人の熱意の炎が消えかけていても、それを焚き付ける人が見つけられないのです。我々のような事業化を経験したメンバーであれば、同じような壁を、実際に乗り越えてきた経験があるから「大丈夫です」と断言し、熱意の炎を再燃させることが可能です。