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量子コンピューティングのグローバルトレンドと製薬業界へのインパクト──寺部雅能氏らが語る本質とは?

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 2024年11月25日から26日の2日間にわたり、「共につくり上げる、ヘルスケアの未来創造図」をコンセプトとして中外製薬により「CHUGAI INNOVATION DAY 2024」が開催された。初日には、「量子コンピューティングが加速するヘルスケアイノベーション」と題したセッションを実施。「誤り訂正技術」の実現をはじめここ数年で大きな技術開発が進み、近い将来に実用化が見込まれる量子コンピューティングが、どのようにライフサイエンスやヘルスケアへ応用されるのか、有識者4名が展望した。本稿では、デロイトトーマツコンサルティング寺部氏による講演とトークセッションの模様をお届けする(登壇者の所属や肩書きはイベント開催当時のもので記載しています)。

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量子コンピューティングのグローバルトレンドと製薬業界へのインパクト

 トークセッションに先んじて、「量子コンピューティングのグローバルトレンドと製薬業界へのインパクト」と題し、デロイトトーマツコンサルティングの寺部雅能氏は量子コンピューティング×ライフサイエンス領域の動向について講演を始めた。同氏によると、量子コンピューティングの市場は急速に拡大しており、「2040年にはグローバルで100兆円を超える」と予測されているという。これは現在のAIの市場規模よりも大きな数字で、この有望な成長市場に対してGoogleやAmazon、Microsoftなどのビッグテックは、ハードウェア開発からしのぎを削っている。

量子コンピューティングの正負の側面

 2027年には、公的機関や民間企業による量子コンピュータ開発に投じられる資金が総額164億ドルに上るという予測もあり、こうした活発な動きが技術の進化を加速。2030年に実現すると見込まれていた、量子コンピュータの実用化に不可欠とされる「誤り訂正技術」は昨年、米QuEra Computingによって実現された。

 寺部氏は量子コンピュータによって、これから様々なユースケースが生まれて世の中が変わっていくと話す。

「たとえば材料開発において、これまで数百年という時間が必要と考えられていたシミュレーションを、量子コンピュータが現実的な時間の中で計算してくれるようになります。その結果、新しい材料が生まれたり創薬が進んだりといった、大きなインパクトが生じるでしょう」(寺部氏)

 その一方で、同氏は新たにリスクが生まれることも指摘。中でも最も大きい問題とされるのが「暗号解読」で、これまでに生み出されてきたセキュリティ技術は、2030年には量子コンピュータがすべて解読できるようになると言われている。

製薬業界での量子コンピューティング活用の現在地

 次に寺部氏は、製薬の領域で量子コンピューティングが活用されている海外の事例を解説。ベーリンガーインゲルハイム、ロシュ、メルク、ファイザーといった世界の大手製薬会社は、すでに量子コンピューティングの活用を進めており、専門人材を獲得する動きも強まっているという。また、量子コンピューティング×創薬をテーマにするソフトウェアスタートアップが増えており、大型の資金調達に成功する会社も登場。そのほか海外の医療機関が量子コンピュータを導入し始めており、米Cleveland Clinicは昨年、院内にIBM製の量子コンピュータの実機を導入。イスラエルのSourasky病院はNVIDIA、量子コンピューティングプラットフォーム運営のClassiqと共同で、新たなイニシアチブを立ち上げている。

寺部雅能
デロイトトーマツコンサルティング合同会社 量子技術統括 寺部雅能氏

量子コンピュータに適した4つの用途とは

 ここで同氏は、あらためて量子コンピュータの仕組みについて、次のように説明した。

「人間が日常の中で目にする物理法則と異なるルールのもとでふるまう量子、その量子力学の『重ね合わせ』や『量子もつれ』といった性質を使うことで、従来のコンピュータよりも超高速な計算を可能にするのが、量子コンピュータです」(寺部氏)

 こうした理解から、「量子コンピュータはどのような計算でも早く実行可能と勘違いされる」と、寺部氏は指摘。量子コンピュータが高速計算可能なのは特定の用途のみで、既存のCPUで動くコンピュータの補助的に使われていくのだと話す。

 その特定の用途とは、次の4つ「組み合わせ最適化」「AIを含むデータ科学」「計算機シミュレーション」「暗号解読」だ。

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 1つ目の「組み合わせ最適化」は「無数にある組み合わせから条件を満たすものを探索する問題」を解くことで、ユースケースとしては生産オペレーションの最適化などが挙げられる。2つ目の「AIを含むデータ科学」は、既存のコンピュータで膨大な時間を要する学習を高速化・高精度化し、AIの技術開発に貢献することを指す。

 3つ目の「計算機シミュレーション」は、すでに言及のあったとおり「量子化学計算」を高速化し、創薬に必要な分子のシミュレーションなどを短時間で実現。最後の4つ目が「暗号解読」で、これもすでに説明があったとおり、従来のコンピュータでは大量の計算時間を要した暗号を解読できるようになる。

 量子コンピュータの進展にはまた、ハードウェアの進化も欠かせない。寺部氏によると、これまではゲート型と呼ばれる汎用量子コンピュータの中でも超伝導方式の開発が先行していたが、中性原子、イオントラップ、光量子など、いくつかの有力な方式の技術開発が進み、群雄割拠の状態にあるという。そしてその開発スピードは当初の見込みより早く、2028年頃には量子コンピュータが実用化されるかもしれないそうだ。

 こうした動きに合わせてデロイトトーマツコンサルティングでは、産業支援のみならず自社で量子コンピューティングの技術研究やエコシステムの形成などを手がけていると、寺部氏は説明。同社と中外製薬が共同で、量子コンピュータが実現した際にどのようにその技術を創薬に活用できるのか、外部の新興企業や学術界と連携しながらPoCに取り組んでいる事例が紹介され、同氏の講演は締め括られた。

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量子コンピュータに適した4つの用途とは

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この記事の著者

加藤 智朗(カトウ トモロウ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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