セミナーレポート デジタル経営の実践と戦略

リテール業界での生き残りは事業再編と水平連携──DXを“コロナ対応”から“新たな価値提供”の手段へ

リテールAIセミナー2020レポートVol.2

 世界的にリテール業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進む中、日本では一部の最先端企業を除いた多くが遅れていると言われている。折しも新型コロナウイルス感染症の影響によって明暗が分かれたこともあり、今以上にICTやAIテクノロジーの活用が注目されるのは間違いないだろう。そうした課題のもと、2020年6月2日、リテール分野のAIテクノロジー活用に関する調査・研究に取り組む一般社団法人リテールAI研究会が「リテールAIセミナー2020『未来の流通〜アフターコロナも見据えて』」と題して公開セミナーを開催した。本稿では、前回の記事で基調講演の様子をお届けした、筑波大学ビジネスサイエンス系教授 立本博文氏をファシリテーターとして、パネリストにはリテール研究会に名を連ねる3氏が登壇し、「アフターコロナにおける小売業の変化や課題」について意見を交換した。

[公開日]

[講演者] 今村 修一郎 宮田 ひろ 田中 雄策 立本 博文 [取材・構成] 伊藤 真美 [画] 青松 基 [編] 栗原 茂(Biz/Zine編集部)

[タグ] 企業戦略 バリューチェーン DX RaaS オンライン接客

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イレギュラーな事象への弱さが露呈したAI、リテール業界の明暗

 新型コロナウイルス感染症は、規模の大小を問わず、小売業界のほぼ全ての企業・サービスに影響を与えることになった。それぞれ業種や業態などによって、影響度や影響の種類は異なるものの、業界全体としては、どのような影響を受けたのか。

 立本氏のその問いに答えたのは、リテールAI研究会テクニカルアドバイザーの今村修一郎氏。流通・小売、マーケティングなどのコミュニティから漏れ聞こえてきた「AIは万能ではない」という話に強い印象を持ったと語る。

「AI(機械学習)は過去データを学習して予測するものだが、突然コロナによってイレギュラーな事象が起きるとまったく正確な予測ができなかった。任せきりにしていた業務プロセスが回らなくなり、広告の入札や証券会社の買付など軒並み影響を受けた業界も多く、モデルの作り直しや過去データの刷新、データの蓄積など、一から作り直す必要も生じている。AIが緊急時に弱かったのは盲点だった」(今村修一郎氏)

 だからこそDX化進む中で、AI活用が一律に一気に加速するというわけでもないようだ。オンオフでの消費行動の違いなどを考えると、「AIだけでなく、AIを含めた」対応が求められるという。現実的にはAIに全てを任せるのではなく、1:ブレーカー的なオフモードとして使わない場合を想定しておく、2:複数のモデルを用意しておき、臨機応変に使い分ける、などの対応が挙げられる。

 今村氏は「逆の見方をすれば、『過去のデータ』が使えなくなったことで、これまで取り組んできたところはゼロからの再出発になる。いわば“旧石器時代”にリセットされた状態」と表現する。これまでの「ビジネスエキスパートの勘と経験」が必ずしも正しいとは言えなくなり、これまでデータ活用で対応が遅れてきたところとの差が縮まって、新しい競争が始まるというわけだ。そもそも既存のデータ活用、たとえばチラシや催事などは人が計測・予測していたデータと言えるが、今後は人手不足でそうした取り組みをやらない、またはデータとして取らないということも増えるだろう。

 一方、リテールAI研究会OMOエキスパートの宮田氏は基調講演で立本氏が語った「コロナの影響は、リテールでもそれぞれ業種や業態で異なる」という事態を3月の時点から感じていたという。ファッション業界などでは昨対4割に満たない店も続出し、リストラまで考え始めていた。一方、スーパーなどでは通常以上に混み合い、安全性を確保しながら店を回すことに必死になっていた。

「不要不急という言葉で分断されて二極化し、明暗を分けたことを恐ろしく感じた。特にスーパーの賑わいは凄まじく、そこに向かう人たちに対して飲食店の持ち帰り用の出店が出るほどで、集客力に圧倒された。大手広告代理店なども店舗をメディアとして見ていると言われるが、そのポテンシャルや可能性を目の当たりにしたように感じる」(宮田ひろ氏)

 宮田氏が語る食品などのスーパーの潜在力について、さらに今村氏も「集客だけでなく、それでも回してしまうオペレーション力のすごさにも驚かされた」と語り、「日本の小売業における現場の底力を感じる」と評した。

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