ユーザーの意思決定を“ついつい”から“よくよく”へ変容する
『行動を変えるデザイン』の翻訳チームの一人である、株式会社リクルート住まいカンパニーSUUMOリサーチセンター研究員の相島雅樹氏は、「涵養するデザイン 感染症時代の行動変容デザインに求められるもの」と題した講演を行った。
相島氏は、慶應義塾大学 武山教授の講演でも紹介された人が持つ意思決定システム(システム1、2)に関して、“ついつい”と“よくよく”という表現に置き換えて説明する。“ついつい”が短期的な思考であるシステム1であり、“よくよく”が熟慮型の思考であるシステム2に該当する。“ついつい”生活習慣病になってしまうにも関わらずカウチポテト生活を変えられないとか、“よくよく”考えれば禁煙したほうが良かったのでコロナ禍のこの時期に禁煙するなど、システム1、2をわかりやすく説明する。
では、その“ついつい”が暴走すると人の行動にどのような悪影響が生じるのだろうか。
事例として共有されたのは、ロックダウン中に投資アプリで多額の損失を生んでしまったと思い自死を選んだというアメリカでのニュースに関して。この事件の前には、ミレニアム世代向けの投資アプリとしてそのUXが高く評価されていたサービスだった。自殺した若者の遺書には、このアプリに対する怒りなども記述されていたが、その中には、自分がしたことの「手触り感」がなかったとも書かれていたのだという。
この不幸な事件に対して、相島氏はデザイナーとしてどうすることが必要だったのかを問い直したのだという。この問い直しにも、“ついつい”と“よくよく”をベースにして考えられている。
デザイナーがとるべき態度として、「“よくよく”を促す」と「“よくよく”を適応的にする」の2つがあると仮説を述べた。「“よくよく”を促す」の例では、相島氏も利用しているnoteの機能を紹介する。noteでは、投稿する前に「コメントをする前に」という画面が現れ、今まさに投稿しようとしている内容を反芻し、衝撃的な行動を避けるため、“よくよく”考えることを促している。また「“よくよく”を適応的にする」では、起こる事象に対してAll-or-Nothing思考(うまくなければ全てが駄目)ではなく、うまくいっている部分をみつけて、適応的な考え方ができるようにプロダクトがユーザーに伴走すべきなのではないかとした。