カスタマーサクセスが企業の持続的成長のエンジンとなる
──日本ではカスタマーサクセスがまだ認知されていないと聞きます。まずはカスタマーサクセスの概要からご説明いただけますでしょうか。
奥村 祥太郎氏(バーチャレクス・コンサルティング株式会社 取締役、以下敬称略):カスタマーサクセスの概念を一言で表すと「顧客の成功を第一に考えてビジネスを設計して行動し、顧客が幸せになることで自分たちを成功に導く」です。
米国では、数年前より“顧客に選ばれ続ける”必要のあるサブスクリプションビジネスを中心に注目を集めていました。弊社バーチャレクス・コンサルティングは企業理念として「Succession With You」というタグラインを掲げていますが、この考え方とも通ずるところがあったため、2016年に米国で出版された『CUSTOMER SUCCESS』というカスタマーサクセスの教科書的位置付けの本を弊社で翻訳し、2018年に『カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則』として出版しました。カスタマーサクセスの「青本」と呼ばれています。
森田 智史氏(バーチャレクス・コンサルティング株式会社 ビジネスインキュベーション&コンサルティング部長、以下敬称略):今は作り手側が良いと思うものを作っていればビジネスが成功するプロダクトアウトの時代ではありません。選ばれ続けるためには顧客起点で戦略を考え、実行に移すこと、さらにはそれを“し続けること”が必要です。そのため、カスタマーサクセスの概念はサブスクリプションビジネスだけが重視するべきものではなく、すべてのビジネスで意識すべきものだといえます。
カスタマーサクセスの哲学のもと、顧客としっかりと向き合うということは、顧客の成功を目指し、顧客と共に歩み続けるということに他なりません。具体的には、顧客のサービス利用状況を常に把握し続けること、顧客の利用状況から潜在・顕在ニーズを探り出しサービスに反映し続けることであり、顧客に「共に歩み続けたい」と思ってもらう必要があるわけです。そしてそれが叶う限り、良好な関係性が構築・深耕され続けます。このように、カスタマーサクセスとは顧客から選ばれ続ける存在となるための概念であり、つまり、企業として持続的成長を担保するエンジンとなるのです。
なお、カスタマーサクセスは上記のとおり既存顧客との関係性維持・拡大というリテンション面だけではなく、新規顧客獲得という観点でも重要です。コミュニティーマーケティングやカスタマーマーケティングという言葉も昨今耳にすることが増えてきていますが、既存顧客との間に絆が生まれれば、その人々がいわゆるファンとなり、クチコミで新たな顧客を呼びこんでくれる、そういった好循環サイクル、仕組みを作ることもできるのです。
──米国において、カスタマーサクセスのそういった考え方はかなり浸透しているとのことですが、日本国内においてはどれくらい取り組みが進んでいるのでしょうか?
奥村:弊社の調査では、カスタマーサクセスの認知率は2019年3月の段階で3%、2020年3月の段階でもまだ3.5%でした。また、2020年の調査でカスタマーサクセスという言葉を知っている方のうち、50%弱は「勤務先でカスタマーサクセスに取り組んでいる部署、または担当者がある/いる」と答えており、2019年から2倍近く増えていることがわかりました。それでも日系企業勤務の方の17.9%は「取り組む予定も必要性も感じていない」と答えているのが気になるところです。
森田:国内認知度はまだまだ低いものの、カスタマーサクセスに取り組む企業は増加傾向にあり、その多くが1年以内に効果を体感しています。国内企業でいえばスタートアップ系やSaaS企業、また多くの外資系企業がグローバルでカスタマーサクセスを実践しており、カスタマーサクセスと真摯に向き合う企業とそうでない企業の格差が年々開いていくのではないかと思います。この概念が国内で浸透するには時間を要すると思いますが、裾野は広がっていくだろうと考えています。
奥村:偶然にもここ1年のコロナ禍含め社会環境が大きく変わったことにより、企業にとっての顧客接点の在り方も急速に変わってきました。その意味では、日本においてもカスタマーサクセスの考え方に注目する企業が増えてくる可能性があると考えています。ITツールの導入を余儀なくされた企業も多いでしょうし、既存のDXの流れが一気に加速しているので、そういった変化にいかに早く対応していくか、ということが企業には求められるのではないかと思います。