DXが進めば進むほど、カスタマーサクセスは重要になる
──先ほどDXが加速しているというお話が出ましたが、DXとカスタマーサクセスはどのような関係にあるのでしょうか。
奥村:DXは「デジタルによってビジネスモデルや組織を変革すること」ですよね。では、そもそも何故、企業は変革する必要があるのでしょうか。端的にいえば「生き残るため」です。では、どうすれば生き残れるのでしょうか。一言でいえば「顧客に選ばれ続けること」です。顧客に選ばれ続けるためには何が必要でしょうか。顧客の成功に寄り添えること(=顧客起点化)、つまり「カスタマーサクセス」です。このように、DXを言い換えれば、顧客に選ばれ続けるため、デジタルを駆使し、ビジネスモデルや組織を変革すること、となります。これがDXの本質であり、変革の先には顧客の成功がなければなりません。多くの企業、社会全体でDXが進めば進むほど、顧客起点化の流れが加速する。その結果、カスタマーサクセスは企業としての生存を左右する、いわば企業活動の前提となっていくのではないかと考えています。
もともと日本には“おもてなし”の文化があります。それでもカスタマーサクセスが進んでいないのは、DXが進んでいないことが背景にあるのではないでしょうか。
森田:かつて「Japan as No.1」といわれた時代がありました。そこから30年以上経ち、今や世界時価総額ランキングのトップ10に日本企業は1社もノミネートされていない状態です。日本企業が上位から消えた理由はGAFAのような今までにない価値を提供する企業が大きく伸びているからといわれますが、その裏側にある「デジタル・テクノロジーを使う」ことへの意識の差も大きく影響していると考えています。つまり、先進的なデジタル・テクノロジーを積極的に活用することで、もしくはそれ自体を価値創造の源泉とするからこそ、今までにない価値を提供できるようになったということです。
また、人間が行うよりもテクノロジーに任せたほうが生産性の高いものは多々あります。それをテクノロジーに任せ、生まれた余力で従業員が顧客のニーズを把握・反映できれば、顧客に選ばれるようになります。その結果競争力が増し、収益が増え、再投資ができ、さらなる成長に繋がるという好循環が生まれるのです。
ただ、ものづくり大国日本という過去の成功体験からか、日本企業はプロダクトアウトでいいものを作れば選ばれるという発想も根強く残っている印象で、顧客起点という考え方はなかなか定着しません。その結果、テクノロジーを駆使し、顧客の行動や状況を集めてビジネス・サービスに活かすという発想が弱く、かつて肩を並べた米国や、急速な成長を遂げた中国などに後れを取る状況となっているのは自明の事実です。また、昨今のDXブームで遅まきながら取り組み始めても、そもそものリテラシーの問題からうまくデジタルを使えず、困っているという状況なのだと思います。
このように、DXの遅滞が、日本におけるカスタマーサクセスの浸透を阻害している、その必要性を体感できない状況を生んでいるといえるでしょう。
奥村:DXの必要性はコロナ禍よりも前からずっと変わらなかったのですが、今はコロナ禍によって結果的にDX化の流れが加速したということです。DXに取り組む際には自社の都合で考えるのではなく、カスタマーサクセスの発想を取り込み、様々なITツールをきちんと活用し、顧客起点のサービス化を進めていかなければ、顧客から見放されていきます。その意味では、各企業がDXに取り組みだしている今は、言い換えれば、企業が顧客に見放されてしまうかどうかの分水嶺に立たされているタイミングという見方もできると考えています。