JTBがコロナ禍で目指した、『新』交流創造ビジョン
──新井さんは初めて新規事業開発を担当されるとのことですが、それまではどんなお仕事をされてきたのですか。
新井明子氏(以下、敬称略):私は2007年にJTBに入社し、一貫して個人向けの旅行商品の営業を担当してきました。2年前に個人営業においては社内で最高峰の資格である「ロイヤルスタッフ」の認定を受け、InstagramやYouTubeといった会社の公式SNSを活用して認知を広げるといった活動も行っています。
昨年、社内で新規事業のアイデアを募集して事業化を支援する「JTB Tourism Lab」(以下、「ツーリズムラボ」)というプロジェクトに応募したことから、現在は推進中である事業のサービスの立ち上げに奔走しています。
──JTB社の新規事業開発の取り組みについてお伺いします。「ツーリズムラボ」はいつ頃スタートしたのですか。
新井:2021年に創設されました。その元となったのは、2020年度からの中期経営計画における「『新』交流創造ビジョン」です。JTBグループの価値創造の源泉である「つなぐ・つなげる」の思想に基づき、「旅行の企画・販売」というイメージを超えてさまざまな分野で新しい価値を創造する「交流創造事業」をやっていこうというものです。
このビジョンに基いてグループの事業領域が「ツーリズム」「エリアソリューション」「ビジネスソリューション」の3つに再編され、ツーリズム事業本部の事業改革推進部が事務局を務める「ツーリズムラボ」が始まりました。
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それ以前から「JUMP!!!」という新規事業の社内公募制度がありますが、こちらは年に1回の公募で、事業化の予算規模も大きいプロジェクトです。より気軽にいつでもアイデアを応募できる仕組みとして始まったのが「ツーリズムラボ」で、年間約700件の応募があると聞いています。これらの取り組みに関する説明は、イノベーション創発プロジェクト「nextender(ネクステンダー)」にまとめてあり、随時更新しています。
学生さんの言葉に刺激を受けて挑戦を決意
──新井さんの応募のきっかけはなんですか。
新井:コロナ禍における旅行業界の低迷が大きなきっかけとなりました。当時は店舗を利用される方も極端に減少し、このまま何もせずに待っていてはダメだという焦りを感じました。会社としては地域交流や活性化といったこともやっていたのですが、自分にはそのスキルが足りない。だから大学で学び直そうと考えたんです。
──旅行だけでいいのか、という危機感を持たれたんですね。
新井:おっしゃるとおりです。それで、地域経済や地方創生といったことを学ぶ大学の3年次に編入しました。そうすると、周りの学生さんは就職活動の真っ只中です。「新井さん、どうしたら就職できますか?」なんて相談されることもあって、そこで少しカルチャーショックを受けたんですよね。
私は「若者は都会で働きたいものだ」とばかり思っていたのですが、「できることなら地方で働きたい。でも就職口がない」という学生さんがとても多かったんです。「新井さん、JTBなんだからできるよね。わたしたちの職場を地方に作ってよ」なんて、まるでJTBが魔法の会社のような言葉をもらいました。
そんなやり取りを経て、一緒に学んだ学生さんや自分の子どもたちの将来のためにも、何か社会の役に立つようなことをしたいと考えるようになったんです。せっかく大学で学ぶ機会を得たのだから、それを社内に還元したい、今までやってきたことの一歩外に出てチャレンジしてみるべきではと思い、「ツーリズムラボ」への応募を決めました。