「起こりうる未来」を想定するシナリオプランニング
シナリオプランニングとは?
シナリオプランニングは、業界や自社に直接的に関連する情報のみならず、未来の外部環境に影響を与えうる情報を広く収集しながら、議論を通じて未来の駆動要因を見出した後に、複数の起こりうる未来のストーリーを描き、「その未来が実際にやってくるとしたら」と考えながら適応策を検討する未来洞察手法です。ときには多様なステークホルダーと協力しながら、「自分たちがより望む未来を実現するために何をすべきか」という未来への創造策を策定していくこともあります(図1)。
シナリオプランニングを進める上での重要な点は“未来”の区別です。シナリオプランニングでは、願望を含んだ「起こって欲しい未来」や過去からの延長により高確率で予想される「起こるだろう未来」ではなく、論理的に起こるかもしれない「起こりうる未来(could happen)」を扱います。「もし仮に起こったとしたらどうなるか(What if)」思考とも言える手法なのです。
シナリオプランニングの典型的なアウトプットには、設定したテーマに関して大きく未来を分かつ2軸を設定、最終的に異なる4つの未来の世界を構築していくというものがあります。図2は、「2030年の日本企業の経営を取り巻く環境」というテーマでのアウトプットをビジュアル化したものです。
本連載では、主にビジョン策定・戦略策定への活用という文脈で話を進めていくことになりますが、次世代経営者が視座を高めることを目的とした育成プログラムへの適用や新規事業・プロダクトの種を見出すためのワークショップなど、シナリオプランニングの活用例は幅広く存在します。読者の皆様が実践する上では、目的に応じた期待効果を生み出す設計が不可欠となりますので、ご注意ください。
シナリオプランニングの成功例「シェル」
次に、シナリオプランニングによる経営の意思決定の成功例として、オイルショック期のシェルをご紹介いたします。
「もし、石油メジャーではなく産油国が石油産出量の決定権を握り、世界的な石油供給がかつてなく逼迫したら……」
これは第一次オイルショックに先立つ1970年代初頭にシェルが起こりうる未来として想定していたシナリオです。当時の業界は、石油の需要・供給量はともに右肩上がりを続け、設備稼働率は高止まり、価格は長期にわたり安定していました。そうした状況下、シェルが描いたシナリオは「起こって欲しい未来」でも「起こるだろう未来」でもなく、「起こりうる未来」に該当するものでした。しかも、仮に訪れたとしたら業界に与えるインパクトが非常に大きい未来を予め見出していたのです。
シェルはシナリオプランニングを用いて「起こりうる未来」のシナリオを構築、それに備えていたことで、中東諸国の動きから石油危機シナリオが現実化しつつあることを察知し、それに基づく戦略的意思決定を行うことで、危機に適応し、石油メジャーの上位企業に躍進したと言われています。