「データは存在するが活かせていない」という課題
──本日は、MIRARTHホールディングスでの「DX推進施策における顧客起点や顧客体験の再理解や浸透」について伺います。その中で「CXプログラム」をDX推進の一環として実施されたと聞いています。この取り組みに至る経緯をお聞かせいただけますか。
山地剛氏(以下、敬称略):MIRARTHホールディングスは、2021年に発表した中期経営計画の主要方針の一つとして「DX推進による生産性の向上と新たなサービスの創出」を掲げました[1]。それに伴い、デジタル戦略の具体化を目的にDXポリシーを策定し、そのなかに営業やマーケティング、サービスを高度化するためのデータ利活用の推進を盛り込んでいます。
当社は2022年に創業50周年を迎え、お客様や物件、販売などに関するデータは潤沢に保有していますが、これまでそれらのデータを効果的に活用できていたのかといえば疑問です。当社に限らず、不動産業界は他業界に比べてデジタル化が遅れがちですし、業務プロセスにもアナログな部分がところどころ残存しています。
ただ、そうしたビジネスのあり方を変えるにしても、生成AIやビッグデータといった最新鋭のツールを上から押し付けるだけではうまくいかないでしょう。DXはその名のとおり変革活動であり、ビジネスモデルそのものや、ひいては組織文化を変えるものでなくてはいけません。
──確かに。
山地:だとすれば、まずアプローチするべきは今まさに現場で勤務している従業員たちだと考えました。まずは、現場の業務がどのようなプロセスで動いているのか、業務のどの場面でどのようなデータが発生しているのかを、従業員自身が自覚し、ビジネスモデルを構造的に理解してもらうのがDX推進の第一歩ではないかと。こうしたなかで、当社のビジネスモデルを顧客体験の観点から見つめ直すCXプログラムに取り組むことになりました。
──既存のビジネスモデルへの問題意識がDX推進の背景にあったと。具体的に、どのような問題意識があったのか詳しく教えていただけますか。
山地:人口減少や労働力不足といったメガトレンドに対する問題意識ももちろんあるのですが、もう少しミクロなレベルでの「既存のビジネスモデルは本当に正しいのだろうか」「もっとお客様のニーズに合った販売方法があるのではないか」といった疑問のほうが、DX推進の起点になっていると思います。
というのも、例えば、マンションの販売方法ひとつとっても、単に効率を追求すれば良いものではありません。土地を取得して、建物を建設して、広告を打って、お客様に対面で営業をしてといった流れで取引が進んでいきますが、マンションは高額の買い物ですから、お客様にもじっくりご検討いただく必要があり、販売方法は変化しにくい側面があります。
しかし、これだけデジタル技術が進化し、世の中の暮らしやサービスがデジタル化しているのですから、マンション販売においてもお客様にもっと寄り添ったビジネス展開ができるはずです。変化が起こりづらい業界だからこそ、既存の業務やビジネスモデルを見直す機会が必要だと思います。まずは顧客起点で考えるその手段として実施したのが「カスタマージャーニーの作成を通じた顧客体験の理解」でした。