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なぜ大企業が文化人類学者を“青田買い”するのか──文化人類学のビジネス人類学への系譜とは?

消費者インサイトを理解するための「エスノグラフィ」活用講座レポート・前編

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そもそも「文化人類学」とは

 ソニーのリサーチャー採用募集に限らず、人文系の知見をビジネスで活用したいというニーズは根強く、ますます増加する傾向にある。主な活用シーンは、ビジネスの上流での企画フェーズにある。新規事業企画、サービス企画などにおいて、文化人類学の知見が求められている。また、現在では、マーケティングや組織開発での活用も増えているという。

 では、そもそも「文化人類学」とはどのような学問で、どのような経緯を経てビジネス人類学へ発展したのか。大川内氏の講演内容から振り返りたい。

「文化人類学とは、同時代に生きる人々の日々の暮らしから、『観察対象の異文化』と『観察者自身の自文化』を同時に発見し、近代社会が前提としてきた“当たり前”を問い直していく態度をとる学問です」

 講演では、主に文化人類学における「フィールドワーク」やその成果物である「エスノグラフィ」の活用に関して解説が行われた。

 文化人類学におけるフィールドワークでは、“未開の地”である調査対象が暮らす場所で、インフォーマント(情報提供者)を見つけ出し、長期間(1年〜2年)生活を共にしながら、彼らの文化・言語・宗教・経済・行動様式などを経験的に調査するというのが典型的である。観察対象となる人々と関係を構築し、彼ら/彼女らの日常的実践に全人格的に巻き込まれつつ調査を行うものだ。

フィールドワーク

 フィールドワークは下記のような目的で行われる。

  • 狩猟採集民の暮らしから「働く」意味を捉え直す
  • 市場経済とは異なる先住民による島々での宝物交換からプレゼントを考え直す
  • 狩猟のために使用した道具を思考の手がかりに最新の科学技術を問い直す
  • 「未開」とされてきた人々の呪術的思考を通じて現代の健康や美意識を考える

 このフィールドワークで得られる成果物(エスノグラフィ)は、「仮説検証」に活用するのではなく、「課題発見」や「仮説生成」により効果を発揮する。人々の行動や意識に対してインサイト(新たな視点や洞察)を発掘するアプローチとして、現在ではビジネスシーズの創出にも役立っている。

近代文化人類学の父・マリノフスキー

 そもそも文化人類学は、ポーランド生まれの英国人で文化人類学者である、ブロニスワフ・マリノフスキー(1884-1942)によって体系化される。著書『西太平洋の遠洋航海者』(1922)では、方法論としてのフィールドワークや成果物としてのエスノグラフィを理論化・体系化した。

 マリノフスキーは、フィールドワークにおいて自身も当事者として参加する観察手法「参与観察」を、以下のように定義している。

  • 先入観を持ち込まない
  • 事実データの内側に自らを置く
  • 他の調査方法で収集できるデータは要らない
  • 日常的で単調な事実データを軽視しない
  • 事実データに基づき理論を組み立てる
  • 事実データの出所を明示する
  • 事実データを収集した経緯を生々しく語りかける

 マリノフスキーにより体系化された文化人類学であるが、どうやってビジネスの文脈に、フィールドワークやエスノグラフィが位置づけられてきたのだろうか?

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この記事の著者

栗原 茂(Biz/Zine編集部)(クリハラ シゲル)

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