現代に不可欠な「適応課題」の解決とリーダーシップ
ハイフェッツ氏は医師として最初のキャリアをスタートした。しかし、刑務所での仕事で得た気付きをきっかけに、患者という個人に対してよりも組織や政治のレベルに対して貢献したいと考えるようになる。中でもビジネスと政治におけるリーダーシップに関心をもったのは、企業のCEOなどを診察する機会を通じ、権威をもつ人たちの課題を知ったことからだったと振り返った。
氏によると、リーダーシップは研究の分野としては未熟で、研究者間で共有・合意されている基本的な用語も確立されていない。故に、リーダーシップを実践しようとする人は、拠り所となる明確なアイデアや理論が見つからない状況にある。そのような中でハイフェッツ氏は、人々が自分の置かれた状況をより明確に分析し、前に進む方法を見出だせるよう、リーダーシップの明確なコンセプトの構築に取り組んできた。
1983年から教壇に立つハイフェッツ氏は、毎学期、学生としてやってくる40〜50カ国の企業やNPOで働く人、政治家などから、事例やストーリーを聞いてきた。氏の理論は、そのような人々の実践に照らして検証されてきたものなのだ。
まず理解すべきこととしてハイフェッツ氏は、「リーダーシップは実践とみなすべきもので、その点では工学や医学と同じだ」と強調した。皆が役割に応じて決められたことを行えば済む平和で穏やかな時代には、リーダーシップはそもそも必要ない。ある種の問題があるときに、その解決のために実践するもの、それがリーダーシップなのだ。
ハイフェッツ氏の理論の非常に重要な点が、問題を「技術的問題」と「適応課題」に分けて考えるということだ。例えば、医師は様々な問題に直面するが、その多くは技術的に解決できる。その際に必要とされるのはリーダーシップではなく、権威ある専門知識だ。
しかし誰もが、リーダーシップが必要な問題、すなわち解決策が見つかっていない問題に直面することがある。解決するには、新しい能力を構築しなければならない。新しいビジネスの方法や人との関わり方、新たな組織のあり方やコミュニティの構築方法を学ぶ必要があるのだ。ハイフェッツ氏は、このような課題を「適応課題」と呼び、「技術的問題」と明確に区別する。