ガートナージャパン(以降、ガートナー)は、地政学リスクが今後の日本企業によるソフトウェア/クラウド・サービスなどのIT調達に重大な影響を及ぼすとの見解を発表した。
地政学リスクは一般的に、特定地域の政治的・軍事的緊張の高まりが周辺地域や世界に及ぼす影響を指す。2022年はロシアのウクライナ侵攻をきっかけにこのリスクが改めて注目された。日本企業が利用するSaaSやIaaSといったクラウド・サービスや、ERP等の業務ソフトウェアの多くが海外ベンダー製でり、日本企業の海外拠点のITシステムも現地のITベンダーの支援を受けている場合が比較的多く、このリスクの影響は免れられないという。
ガートナーのアナリストでバイス プレジデントの海老名剛氏は次のように述べている。
「ソーシング/調達/ベンダー管理を担うリーダーにとっては、地政学リスクは今後対応すべき新たな課題です。特にソフトウェアやクラウド・サービスを調達する際には、自社に及ぼす影響を予め評価し、ベンダーと必要な交渉をすべきです」
影響を評価する際の観点としては、以下の3つを挙げている。
コスト
円安を理由にベンダーから値上げを通告されるソフトウェア/クラウド・サービスのユーザー企業が増えている。たとえ円安に歯止めがかかったとしても、ベンダーにとっては開発者の人件費やデータセンターに掛かるエネルギーコストも大きいため、物価上昇を背景とする価格上昇が続く可能性がある。
データ保護
中国はもとより欧州や米国、また日本でも、情報資産を保護するために国外への重要データの持ち出しを規制する機運が高まっている。こうした中、クラウド・サービスではデータセンターが複数の主要国に分散され、国によってはユーザー企業であっても、データの持ち出しや地域間のデータ・アクセスが制限される場合がある。
バージョンアップ/サポート
特定地域でのベンダーの開発/サポート・エンジニアの撤退や、それに伴うサービス・レベルの低下も懸念される。ベンダーが現地エンジニアを引き上げ、リモート対応に切り替えた地域では、データ保護の問題もあり、ベンダーのサポート担当が顧客のシステム環境へ直接アクセスし障害原因を突き止めるといった支援が受けられなくなる例もある。
前述の海老名氏は次のようにも述べている。
「国内ではベンダーとの契約交渉に不慣れなITリーダーが一定数みられ、契約に先立って十分な交渉がなされない場合も散見されます。しかし、地政学リスクの影響が大きくなる今後は、ベンダーとの交渉の重要性はさらに増します。まずは交渉のための十分な時間を、調達計画に盛り込むことが大切です」
ガートナーでは、「2025年までに、50%以上のソフトウェア・ユーザー企業は、『地政学的』な要因を背景とする契約コストの増加やコンプライアンス違反のリスクにさらされる」と仮説を立てた。