組織文化を表現するのに、“絶対的で肯定的な表現”を用いてはいけない
ネットフリックスに関心をもった理由をメイヤー氏は、「彼らが非常に珍しいことを実現したから」だと語った。「珍しいこと」とは、周囲の環境の変化に応じて頻繁に会社の方向を転換し、業態さえも柔軟に変えて成功してきたということだ。
ご存知のとおり、同社はDVDを郵送でレンタルする事業から、古い映画やテレビ番組の再放送を配信するストリーミング事業に転換し、最近ではオリジナルの映像コンテンツをつくるメディア企業へと転換を遂げている。創業者のリード・ヘイスティングスCEOは、同社の俊敏性は独自の組織文化によって実現していると考えている。それを公平な視点から分析できる専門家としてメイヤー氏に協力を求め、1冊の本にまとめたのが『NO RULES 世界一「自由」な会社、ネットフリックス』だ。
メイヤー氏は、研究と執筆の過程で得た一番の学びは、「企業の取り組みやビジネススクールで教えていることの大半が、実は工業時代の残骸である」と認識したことだと振り返る。工業時代の企業は、エラーを排除し、一貫性や再現性を保つことを目指した。しかし現代の多くの組織における最大のリスクは、ミスを犯すことではなく、革新のスピードや柔軟性に欠けることで組織が無用の長物と化すことなのだ。
そうならないためにはどうしたら良いのか。メイヤー氏は、ネットフリックスの実践から得られるいくつかの具体的な教訓を示した。
最初の教訓は、「会社の組織文化を表現するのに、“絶対的に肯定的な表現”を用いるのは避ける」ということだ。
2009年にネット上に公開され、ネットフリックスの組織文化を一躍有名にした「カルチャー・デック」という資料(現在は「カルチャーガイドライン」という名称になり内容もバージョンアップしている)がある。その冒頭では、(巨額の不正会計が明るみに出て倒産した)エンロンが、「誠実さ、コミュニケーション、敬意、卓越性」という聞こえの良い標語をオフィスのロビーに刻んでいたことが指摘されている。
例えば「誠実さ」は、通常は誰にも否定のしようがない価値で、まさに「絶対的に肯定的な言葉」だ。組織文化を表現するにはこういった言葉を使うのではなく、日常業務の中で直面するジレンマを想定し、そのときにとるべき行動を示すことを、メイヤー氏は推奨する。