ヤマハ発動機のDX戦略と「データ分析の民主化」を目指す理由
オートバイなどの「ランドモビリティ」、ボートなどの「マリン」、産業用ロボットなどの「ロボティクス」や、「金融サービス」といった多種多様な事業を世界中で展開しているヤマハ発動機。「感動創造企業 世界の人々に新たな感動と豊かな生活を提供する」を企業目的に掲げる同社は、商品・サービスと、それによる体験で顧客を感動させることを目指している。
今、世の中における“体験”が大きく変化している。あらゆるものがデジタルに置き換わっていき、そしてつながるようになったのだ。そのような潮流に対応すべく、ヤマハ発動機も2017年からDX戦略の検討を開始。トップラインを伸ばしボトムラインを改善する、ブランド価値を高め生涯を通じたヤマハファンを創造する「ビジネスファースト」を目標とし、以下の3つを同時進行で進めることにした。
- Y-DX1:競争力のある経営システムを構築
- Y-DX2:今を強くする
- Y-DX3:未来を創る
これらの変革を、「製品中心」ではなく「顧客中心」の考え方で行っていく。カスタマージャーニーのあらゆる点で顧客とつながり、顧客の期待を超えていくことを目指すということだ。
この考えのもと、既存事業の強化を目指すY-DX2では、業務をつなげる「スマートオペレーション」、製品とつながる「コネクテッド」、顧客とつながる「デジタルマーケティング」、これらの活動によって蓄積されたデータを社員全員が当たり前に活用できる「データ分析」を重点的に強化することにした。
新庄氏は、このうち社員全員が“当たり前に”データを活用できる状態、いわゆる「データの民主化」を重視した理由を説明する。
1つ目の理由は、彼らの組織やビジネスの規模にある。同社の社員数は本社だけで約1万人、グローバルだと約5万人で、事業領域も多種多様。「これだけの組織とビジネスをコア組織だけでデジタル化するのは到底無理。社員一人ひとりが自分ごととして活動していく必要があった」と新庄氏は述べる。
加えて、自由闊達、情熱を持った社員が多い社風も関係しているという。「主観、創造力、意志の強さといった強みがある一方で、デジタル社会においては客観性、再現性、合理性の乏しさが弱点になるという危機感があった」と新庄氏。社員一人ひとりがデータという武器を持てれば、こうした弱みを補い、強みをより活かすことができる。
こうした理由から、同社は「すべての社員が当たり前にデータを使いこなせる」状態を目指してDXを進めていくことになったのだ。