富士キメラ総研は、国内のIT投資動向を調査し、その結果「業種別IT投資/デジタルソリューション市場 2022年版」を発表した。
同調査では、製造業や金融業、小売/卸売業など9業種に分類し、業務システム系(業種特化型システムや業種共通で利用されるERPや財務会計、人事システムなど)や営業・マーケティング系、コラボレーション系(業種特化型のプロジェクトや情報連携に必要なシステム、業種共通で利用されるグループウェア、ビジネスチャットなど)、セキュリティなどカテゴリー別にIT投資の現状を捉え、将来を予想。それぞれの業種に特化した注目の業種別ソリューションについても整理している。
調査結果について同社は以下のように述べている。
国内のIT投資額
国内のIT投資額は堅調な拡大が続くとみられ、2026年度には2021年度比21.7%増が予測される。業種別では製造業、金融業、小売/卸売業の投資額が大きく、それぞれ業務システム系を中心に、セキュリティや営業・マーケティング系などへの投資が増えるとみられる。
投資の目的としては、DXを活用したビジネスモデルの変革や事業領域の拡大などを目指すバリューアップ投資のウェイトが高まると予想される。企業の持続的な成長や不確実な情勢への柔軟な対応を目的とし、業種を問わず投資が増加するとみられる。特に金融業では、金融サービスの高度化や新しい金融ニーズへの迅速な対応、異業種参入による多様なサービス展開に伴い、APIやマイクロサービスなどの技術活用に向けた投資が進む。また、インフラ産業では、電力を中心にスマートメーターで収集したデータ活用などにより、脱炭素化や供給安定化など社会的な課題を解決するための取り組みへの投資が増えるとみられる。
一方、ランザビジネス投資は、既存システムのダウンサイジングやクラウド化により、保守/運用への投資は減少すると見て取れる。ただし、人材不足への対応やコスト削減を目的に、既存業務における効率化やIT化への投資が増加し、今後投資額は縮小するものの一定の規模を維持すると見受けられる。
業種別に見ると、今後の伸びが最も大きいのは製造業。生産現場でのデータ連携や可視化に向けたスマートファクトリー構築、全体最適化を目指した基幹系システムの刷新に対応した需要が中心になる。
2021年度は大手企業を中心に収益が改善したことから、人材不足やコスト最適化、生産性の向上、スマートファクトリーの実現など、DX推進に関連した投資が拡大。また、新型コロナウイルス感染症の流行により、サプライチェーンや需要状況の変動リスクが顕在化したため、データマネジメントや自動化、遠隔監視の実現へ向けた投資が加速した。
投資カテゴリー別では、業務システム系への投資が5割以上を占める。基幹系システムの刷新やインボイス制度への対応や、部門/国内外拠点を横断した一元的な生産状況/情報管理ニーズの高まりに合わせ、MES(製造実行システム)やPLM(製品ライフサイクル管理)、SCADA(監視制御/データ取得システム)などの更新/新規導入が進んでいる。
セキュリティは、スマートファクトリー化に伴い、サイバー攻撃対策としてOT(運用技術)/IoTセキュリティへの関心が高まっている。また、ネットワークを通じたデジタルサプライチェーンに取り組む企業が増えているため、それに対応したセキュリティ対策への投資が増えている。
コラボレーション系では、調達/購買業務におけるサプライチェーンの可視化や、見積依頼から評価/決済までの業務フローがシステム化できるSRM(サプライヤーリレーションシップマネジメント)の導入が進んでいる。営業・マーケティング系では、顧客の働き方の変化に合わせたアプローチ手法や、顧客接点強化のためオンライン展示会やWebセミナー、ECサイトなどデジタルマーケティングへの投資が増加するとみられる。
金融業は、業務プロセスの改革から事業領域の拡大に向けたDX投資が活発化。少子高齢化や低金利による金融マーケットの縮小、規制緩和による異業種参入などを背景として、各社・各行はDXによる全社的な改革や事業モデルの変革を進めており、今後はバリューアップ投資を軸に投資が進むと見受けられる。
業務システム系への投資が6割程度を占めている。基幹系システムの運用管理費は減少しているが、オープン系基盤の採用やアプリケーション構造の見直しなど、抜本的なシステム再構築に向けた投資が増えている。伸びが特に大きいのは営業・マーケティング系で、店舗からデジタルチャネルへの移行を進めるための投資が活発化。実店舗ではセルフ機器やスマートデバイスなどの活用により、従業員の業務効率化や顧客利便性向上などを実現する次世代デジタル店舗への投資が進むとみられる。加えて、スマートフォンアプリを活用してLTV(顧客生涯価値)向上や顧客エンゲージメントを高める取り組みを展開。他にも、クラウドやAIなどを活用してコスト低減や業務効率化を実現するコールセンター向けの投資拡大が予想される。
小売/卸売業は、現状は商品の受発注業務システムや販売/商品/顧客/仕入管理など基幹系システム、POSシステムをはじめとした店舗システムなど業務システム系への投資が中心。今後、人手不足への対応や業務効率化/コスト削減に加えて、ECやOMO(オンラインとオフラインの統合)など売上拡大/顧客体験の向上を目的とした投資増が予想される。
業務システム系では、商品の受発注業務システムや基幹系システムなどの定期的なリプレース、スクラッチでの機能追加が随時行われている。POSシステムでもセルフレジ機能の導入など新たなニーズに合わせて、リプレースを実施。今後は業務効率化や新たな購買体験の提供などを目的に、店舗のデジタル化を進めるための投資が伸びるとみられる。
営業・マーケティング系は、顧客獲得や関係性強化を目的に、囲い込みのためのポイント管理システムや、顧客をセグメント化して適切な商品をPRするシステムなどを強化。EC需要の急増で獲得した顧客をつなぎとめ、展開を進めるため、ECシステムへの投資は続くとみられる。また、多店舗チェーンでは、本部と店舗間の情報共有の課題解決のため、多様な機能を備えたコラボレーションツールの利用が広まっている。
文教/官公庁/地方自治体は、デジタル庁の発足やGIGAスクール構想など政府主導でデジタル化が強力に推進されており、今後はガバメントクラウドへの移行やEdTechを中心とした投資が予想される。
物流/運輸業は、輸配送の安全や人手不足、業務負荷の軽減に向けた投資拡大を予想。新型コロナ流行で大きな打撃を受けた旅客分野では、新事業開拓を目的とした投資が伸びるとみられる。
建設業は、BIM/CIMの活用をはじめとした「i-Construction」への取り組みが今後加速すると予想される。働き方改革に対応し作業員の負担を軽減するため、関連する業務システムへの投資が拡大するとみられる。
不動産業は、賃貸管理システムなどを中心にSaaSを活用したIT化が、中小企業を中心に急速に進むとみられる。法改正による電子契約解禁も投資拡大の追い風になると期待される。
サービス業(宿泊/外食)は、新型コロナ流行の影響を強く受けていたが、業績の回復に伴い投資が復調。人手不足への対応やデジタルマーケティング関連の投資が今後の伸びをけん引するとみられる。
カテゴリー別のIT投資額
業務システム系では、業種を問わず、DX対応や全社横断的なデータ利活用に向けて、基幹系システムを再構築するための需要が増えるとみられる。また、電子帳簿保存法やインボイス制度などへの対応に向けた投資も予想される。特に製造業は、ものづくりの根幹となる製造/設計/調達などに関して、部門や拠点を横断した生産/エンジニアリング領域のデジタル化や統合案件の需要が増えることから、MESやPLM、SCADA、IoTなどへの投資が伸びるとみられる。一方、文教/官公庁/地方自治体は20業務標準化対応やガバメントクラウドへの移行などによりコスト削減が進むため、中長期的には投資縮小が予想される。
セキュリティは、サイバー攻撃による被害が増加の一途にあるため、各業種で投資が拡大。クラウドサービスの利用が増えているため、ゼロトラストセキュリティへの投資が伸びをけん引していく。また、製造業や金融業、運輸業(鉄道、航空)などのOTや独自ネットワーク領域におけるセキュリティ対策の必要性も増しており、投資が拡大するとみられる。
営業・マーケティング系は、オンラインやスマートフォンによるタッチポイントの重要性が増しており、顧客接点の改革や営業の量/質の向上を目的とした投資が全般的に拡大。金融業では、デジタル店舗への投資、モバイルアプリなどを通じたLTV向上や顧客接点改革に向けた取り組みに対する投資の伸びが予想される。