スタートアップの企業フェーズで異なるコーポレートの役割
「スタートアップをスケールさせるコーポレートとは」と題されたセミナーの冒頭、小林氏はスタートアップでのコーポレートの役割を成長フェーズごとに解説した。
- コーポレート専門人材などはおらず、創業メンバーが“火消し対応的”にその役割を担当する「創業期(~50人程度)」
- コーポレートの特定機能に明確なニーズが発生する「上場直前期(~150人程度)」
- コーポレートの機能分化と組織の縦割りが特徴的な「上場直後(150~)」
- 属人的な管理から継続性に重きを置いた管理へ移行する「上場以降(1,000人規模)」
DeNAでいくつかの成長フェーズを事業部門と管理部門の双方を経験した小林氏は、上記のような成長フェーズのコーポレートで起こる変化を語る。
同じ業務でも企業フェーズで求められるスキルは異なる。例えば経理では、創業期では「入力~月末や期末の締めの門番」という役割から、上場直前・直後以降は「管理会計やグループ会計」へと進化していく。IRや人事も同様に、それぞれ創業期と上場直前・直後以降では、求められるスキルは大きく異なる。人材の成長、もしくは人材の入れ替えなども視野に入れる必要がある。
コーポレートで企業成長に合わせて発生する課題は主に2つある。1つは業務の分化・専門家に伴う「コミュニケーションコスト増」であり、もう1つは「コーポレートの全業務の掌握と意思決定の困難さ」だ。
上場前後に“激増する”コーポレートとしての宿題
どうやらスタートアップのコーポレートの強化は上場前ぐらいから声高に叫ばれるようになるが、ここで強化の方針があいまいになってしまっていることが課題の大きな要因になっているようだ。小林氏は、上場前後の「コーポレートの強化」の詳細を語る。
上場前に金科玉条として語れるフレーズがある。「上場にはコーポレートの強化は必須です」というマジックワードだ。多くの場合、強化の中身をきちんと理解していないままコーポレートの専門人材を増やし始めてしまう、と小林氏はいう。
例えば、上場前に「人材を増やす」場合にはどんな人材をどのぐらい増やすのか。コーポレートの中でもどの専門人材を増やすのか、もしくはゼネラリストを採用するのか。意外にも、この辺が整理されていない場合が多いという。
早期決算対応/グループ会社管理/人事評価制度/IR/開示実務/取締役会事務局/内部監査/情報システム/ESG対応/エンゲージメント・スコアリング/知財管理……
コーポレート機能強化に関する“宿題”は盛りだくさんだ。
コーポレートガバナンス強化という宿題
上場前のスタートアップ経営者に押し寄せるプレッシャーとして、同じようなテーマがある。それが「コーポレートガバナンス」だ。
コーポレート機能の強化と同様に、コーポレートガバナンスの整備と聞いて思い浮かぶの以下のようなテーマである。
監査機能/取締役の専任/社外取締役の役割/報酬決定・開示/サクセションプラン/グループ会社管理/取締役会の運営方法/資本市場との対話(IR)/ESG対応/経営と執行の分離……
コーポレート機能強化と同様に、めまいがするほどの“宿題”の量である。これらコーポレートガバナンスに関して、スタートアップではどのような印象が持たれているのだろうか。全体像がわからないけれど、上場前にやれなければいけないことで、かつ、不祥事を起こさないためのもの。そのような認識を持っていることが多いのだという。
小林氏は、「コーポレートガバナンス」、「コーポレート機能の強化」のいずれについても、スタートアップ経営者にとって正しい認識が持たれていない結果、「面倒だけど、やらないと仕方がないもの」というように映ってしまうのだという。
では、スタートアップの経営者は、「コーポレートガバナンス」と「コーポレート機能の強化」の双方にどう向き合っていけばよいのだろうか。