「真の顧客行動」を理解するためのカスタマージャーニーマップの4象限
――カスタマージャーニーマップ(以下、CJM)を活用するために使われている分類法について解説していただけますか。
長谷川:
CJMは図1のように4つに大別できます。1つめの軸は、「現状(AS-IS)」なのか、「将来像(TO-BE)」なのか。AS-ISは現状での顧客の動き、対してTO-BEはこういうふうに顧客に動いてもらいたいという企業側の理想や目標設定で、それを目指して施策を打っていく。この2つはしっかり区別しないと、現状を描いているのか、プランニングをしているのか混乱させてしまう可能性があるので、常にどちらを描いているかを意識する必要があります。
2つめの軸は、「Inside-out(以下、サービス視点)」と「Outside-in(以下、顧客視点)」。「サービス視点」は事業者側の視点で、自社製品・サービスが認識される点からスタートする。認知、検討、クローズまでの流れで、広告的視点はこちら側です。それに対して、顧客視点は、自社製品・サービスに限らず、その製品・サービスとの接点を持ちうる可能性のある顧客の行為すべてを描く。企業からすると、自社製品・サービスに無関係と思われることまで含まれるので、無駄があると感じてしまうかもしれません。
ただ、サービス視点では現在の製品やサービスの改善に主眼が置かれるのに対し、顧客視点を持つと、たとえばテレビの敵はYouTubeではなくスマホのゲームだとか、違う文脈のものが実は意味的競合にあるといった新しい発見がある。そういう観点を得るためにも、自社の製品・サービスの流れに囚われない、顧客の振る舞いからの視点が必要です。
自社の事業から一旦離れて、顧客行動を観察して作ったCJMは、分かっていることを整理して収めたものではなく、いろんなインサイトを得られる素材になります。CJMはそうあるべきで、“自分たちの予想の外”から顧客の振る舞いが描かれていくと、「ああ、なるほど」という納得もしくは反省や「ここで何かできる」というアイデアが出てくるんです。
「サービス視点 x AS-IS」のCJMは「サービスの現状分析」で、サービスのボトルネックがどこにあるのか、どこで顧客が脱落しているかといった現状の把握には有用です。
「顧客視点 x AS-IS」のCJMからは「顧客の真の行動」を知ることができます。ただ、ほんとうに顧客視点に寄り添うところまで自社の事業を変えられるかというと、なかなかそうはいかないのが実情だと思います。サービス視点の課題解決をしつつ、顧客視点で得られている知見をエッセンスとして盛り込むところから始めてみるといいのではないでしょうか。