経営者のビジョンやビジネスモデルを過不足なく伝える
──前編では、成長ステージの企業において、IRで会社が向かう方向をきちんと伝えることが重要だというお話がありました。一見突飛に見えるような経営者のビジョンを、ロジカルに分解して説明していくようなことも必要になりそうですね。
市川祐子氏(以下、敬称略):はい。経営者がビジョナリーであるがゆえに、他の人には理解が難しいビジネスモデルみたいなものが出てくると、それを表現するのがIR担当者の仕事です。よく分からないまでも経営者の話した新しいビジネスモデルを絵に描いてみて、「こんな感じですかね?」と確認していったりして。当時は、三木谷(浩史)さんの表情を見て、「何か思いついたらしい」(つまり仕事が増える)と身構えることがありました。
──ITやデジタルに基盤を置くビジネスモデルが、業界外の投資家には理解が難しいという面もありそうですね。
市川:そうかもしれません。ただ、ビジネスモデルを噛み砕いて説明するというのは、どんな業界でも必要ですね。
浜辺真紀子氏(以下、敬称略):ビジネスモデルを分かりやすく説明するということは、とても重要なことです。そして多くの人は、それを説明しようとすると木の幹と枝葉の部分とを、同じ粒度で話してしまい、とても分かりづらくなる。IRとしては、幹のところをしっかり説明して、「これは枝ですよ」、「ここは葉っぱだから気にしなくていいですよ」という形で、木の全体像を理解できるように話すのが重要なんです。──クリエイティブな人、ビジョナリーな人のまだ整理されていないような言葉を、ちゃんと聞いて、脳の中でロジカルに統合し、木の幹と枝葉を分解できるような能力が必要だということですか。
浜辺:経営者のビジョンもそうですし、ビジネスモデルも、社内で何が起きているのかということも、とにかく難しいことを分かりやすく説明するのがIRの役割です。
いま思い出したのですが、投資家の方に「ヤフーって何ページあるんですか?」と聞かれたことがあります。2000年頃のことで、彼はヤフーで表示されるウェブページが、紙芝居のように1枚1枚準備されて表示されていると思っていたんですね。そのような方に対しては、気分を害したり恥ずかしく思わせたりしないように気を付けながら「これは後ろにある膨大なデータを利用者の画面に最適な形で呼び出しているのです、云々」というように平易に説明していました。産業を正しく理解していただくためには、とても大事なことです。
──DXを進めようと思ったら、ソフトウェアの構造みたいなものも理解していないといけない、という話題にも通じますね。
浜辺:そのとおりです。
市川:アナリストは事業構造を正しく理解しないと、その先の業績予想も間違えてしまうんですよね。ですから、「幹はこれです」と正しく伝えるのがとても重要ですよね。