「今のマーケティング」のために巨匠の理論を学ぶ
グローバル化やニーズの多様化など様々な要因から、急速にその重要性が認められている「マーケティング」。しかし、その存在を知ったのは社会人になってからで、実は体系的には勉強したことがないという人がほとんどだろう。そこで大慌てでマーケティングの巨匠と呼ばれる人々の著書を手に取るものの、難解さに挫折して放り出してしまう、もしくは、新しいメディアや技術に古典は不要とばかりに切り捨ててしまう、そんな人も多いようだ。
しかし、30年にわたってマーケティング一筋に取り組んできたという庭山氏は次のように語る。
一見古典と見える彼らの理論には“今のマーケティング”においても通じるものが多く、いわば基礎となっていることも少なくありません。施策においても成果においても、学ぶと学ばないのとでは明らかな差がつきます。
その中でも大きな影響を与えている人物として、コトラー、ロジャーズ、レビット、ムーアの名前を挙げた。はたしてどのように、彼らの理論が現在のマーケティングに“実装”されているのだろうか。
フィリップ・コトラーの「STP理論」
庭山氏がまず紹介したのは、フィリップ・コトラーだ。マーケティングに触れたことのある人なら、知らない人はいないだろう。「マーケティングの神様」と呼ばれ、83歳の今も教鞭をとる現役の学者であり、数多くの著書は世界中で読まれている。しかし、庭山氏は「有名であるにも関わらず、正しく理解している人は少ない」と指摘する。そして、次の3つをコトラーの功績の中でも特に偉大なものとして紹介した。
1.STP戦略の提唱
STPとは、市場を製造物、規模、エリア、レイヤーなどで細分化=セグメンテーション(S)し、その中から自身が勝てる土俵=ターゲットセグメント(T)を探し、その中の人や企業に対して「ここでやっていく」と宣言=ポジショニングする(P)というフレームワークである。
STP定義ができれば、「Product(製品)」「Place(流通)」「Price(価格)」「Promotion(販促)」を考え、計画することができる。これらは、マーケティング用語としても知られる「4P」と称され、通常はPriceがPlaceより先に記されることが多い。しかし、庭山氏は「どのように販売するかが決まって初めて、値付けが可能になる」としてPlaceを先に置くようにしているという。
そして、4Pの計画を踏まえ、現場では潜在顧客からロイヤルカスタマーまでを対象とした様々な施策が展開されることになる。SEOやリスティング広告も、「今のマーケティング」の多くはプロモーションに入るわけだ。しかし、庭山氏は「今のマーケッターはここばかりを見ている」と指摘する。
こうした担当者は、「なぜ、この展示会に出展するのか」と聞いても「毎年出ているから」「わからない」と応えるのです。「私たちがターゲティングした顧客がこの展示会に集まるからです」と答えられないのは、STP定義を意識していないからです。ここを理解していなければ、施策の正しさも検証もできず、成果を上げることも難しいでしょう。
STPで定義したことが、すべてのマーケティング活動の指針となる。そこに立ち返って考えることが、すべての施策を講じる上で重要というわけだ。
STP定義はマーケッターの最も重要な仕事であり、STPに始まってSTPに終わると言っても過言ではありません。ですから、あらゆるマーケティング活動の最上流の起点となるSTP戦略を提唱したという意味で、私は「コトラーの功績の中でも最大の功績」と考えています。
2.ソーシャルマーケティングの確立
今に通じるソーシャルマーケティングの必要性を、いち早く提唱したのもコトラーだ。非営利組織、つまりは病院や博物館、オーケストラなどの芸術団体、NPOや環境団体、あるいは大学などでも、今では企業と同じようなマーケティングアプローチが当然のように行われるようになった。さらに現在は「コーズマーケティング」「コーズリレイテッドマーケティング」など、消費者の購買行動が、環境や社会を改善することをメリットとして訴求するマーケティング手法があるが、ここから派生したものである。
3.全マーケティングの体系化と編纂
庭山氏は「コトラーの代表的な著書に『コトラーのマーケティング・マネジメント』があるが、まさに百科事典。手元において折にふれて読むことで、新たな気付きや確認ができる」と評する。この本は、現在も加筆・修正が続けられており、現役の学者としての真摯さも賞賛に値するといえるだろう。