エベレット・ロジャーズの「イノベーター理論」
次に紹介するのは、エベレット・ロジャーズ。その名前を「イノベーター理論」で耳にした人も多いのではないだろうか。「イノベータ理論」は1962年に著書『Diffusion of Innovations』の中で提唱されたもので、後に紹介するセオドア・レビットの「ホールプロダクト理論」、ジェフリー・ムーアの「キャズム理論」とも密接に関係している。
イノベーティブな製品や技術、考え方が、市場にどのように浸透するかを分析したもので、浸透の様子を表した曲線は「イノベーションのベルカーブ(釣鐘型)」と呼ばれている。まずイノベータと呼ばれる“新しもの好き”が飛びつき、その後、アーリー・アドプター、アーリー・マジョリティと続き、満を持してレイター・マジョリティ、そして最後の最後にラガードと順番で浸透していく。そして、イノベータとアーリー・アドプターを足した16%を超える頃から急激に浸透することから「クリティカル・マス」と名付けられている。
50年以上前に提唱された理論ながら、世界中のマーケティング担当者によって現在も強く意識され、施策設計に使用されている。その理由は、自社の製品がベルカーブのどこにいるかによって、マーケティング戦術が異なるからだという。つまり、セグメントごとで性格が異なるターゲットに対して、語りかける言葉や施策を変える必要があるというわけだ。
たとえば、イノベータには「β版」とか「熟練者にしか使えません」などの言葉が響きますが、マジョリティには「そんなの無理」と拒絶されてしまいます。彼らに響くのは「みんな使ってる」という事実です。また、イノベータとアーリー・アドプターは新しもの好きという部分では共通していますが、前者は所属する組織から浮いており、後者は尊敬を集めています。となれば、マーケッターは、マジョリティを動かすアーリー・アドプターを味方にしたいわけですが、彼らが見ているのはイノベーターなんです。しかし、仲良くなりすぎると集団を敵に回すことになるという面倒臭さがあるのですが…。さらに、ラガードを動かすマーケティングは、その費用対効果から“ない”と諦められています。
「こうした考察ができるのも、ロジャーズの功績があってこそ」と庭山氏はいう。さらに、イノベータ理論は、その後に続くマーケティング学者を大いに刺激し、そこから様々な理論が誕生している。その意味でも、重要な理論であることは間違いないだろう。