岸田政権も注目する「スタートアップのM&A」
2022年を「スタートアップ創出元年」と位置づけた岸田政権。今後5年でスタートアップへの投資額を10倍に増やし、ユニコーン(設立10年以内で、企業評価額が10億ドル以上となった非上場のテクノロジー企業)を100社創出するという大きな目標を掲げています。
世界と戦える日本発のスタートアップが続々生まれるようになれば、日本経済のけん引役となっていく。これが私の持論です。国が昨年11月に発表した「スタートアップ成長5か年計画」、とりわけ注目を集めているM&A促進策は、スタートアップが育ちにくいと言われ続けてきた日本の土壌を変えるきっかけとなるのでしょうか。
一般に成功率は3~4割程度と言われるM&A。しかし、スタートアップの成長力を左右するヒト・モノ・カネの3要素を考えるとき、M&Aは、そのいずれについても最適化し得るポテンシャルを秘めたソリューションでもあります。
最初に、簡単に自己紹介させていただきます。私は2011年、学生起業でアプリ開発事業を立ち上げ、4年で事業売却。2社目の今は、スタートアップを主なユーザーとして、M&Aや資金調達を支援するサービスを展開しています。
当社のメインサービス「M&Aクラウド」は、いわばM&A版の「リクナビ」です。買い手各社のM&A戦略をまとめた記事を公開し、企業同士の自由なマッチングの機会を提供しています。
昨秋には、2つ目のサービス「資金調達クラウド」をローンチ。資金調達に関しても、オンラインで効率的にマッチングできる環境を整え、スタートアップの成長戦略を一気通貫で支援しています。
日本のスタートアップ活性化の歩み
連載第1回となる今回は、日本におけるスタートアップのM&Aについて、大まかな流れを紹介します。
そもそも「スタートアップ」とは何を指すのでしょうか。単純に創業からの年数が浅いというだけでなく、ビジネスモデルに何らかの革新性があることがポイントです。加えて、事業が軌道に乗った後は、急激な角度での成長を目指す点も大きな特徴です。
GAFAMを筆頭に、シリコンバレー発のスタートアップが世界にイノベーションをもたらし、産業構造を変えたことはご存じの通りです。私が生まれた1989年(平成元年)は、世界の時価総額ランキングの上位に日本のメーカーや金融機関が並んでいました。それに対し、約30年後の現在で、上位は米国のIT企業に取って代わられています。
スタートアップが成長していくためには、起業家たちに資金を供給する投資家の存在が不可欠です。ITスタートアップの場合、製造業にとっての工場のように担保となるものはなく、あるのは“アイデア”や“技術”といった無形のものばかりです。そのため、銀行からの融資が受けづらく、資本参加してくれる投資家に頼ることになります。
米国でスタートアップが台頭してきたのは1990年代。スタートアップ育成に特化したファンドを運営するベンチャーキャピタル(VC)が増えてきた時期です。日本でこうしたエコシステムが形成されたのは2013年ごろで、メルカリやSmartHRもこの時期に創業しました。
エンジェル投資家(起業して間もない企業に資金を出資する投資家)やVCからの資金調達を重ねながら事業を発展させ、一定規模に達したスタートアップが次に目指すステップと言えば、株式市場への上場を思い浮かべる人が多いでしょう。市場からの資金調達を通じて新たな成長フェーズへと進むことが、スタートアップの王道とみなされてきました。しかし、上場を一番の目標とするスタートアップの成長戦略は大きく変わりつつあります。