現場の業務改善やデジタル化で終わらせない
日本の製造業界で“DXの取り組み”として紹介されるものに、たとえば「工場設備における点検業務の省力化」がある。従来は現場担当者が工場内のアナログ計器を巡って目視し、チェックシートに記録して手入力していた点検業務を自動化しようという取り組みだ。しかし、設備の老朽化やネットワーク分断の問題により、計器から直接データを取り込むことができないケースが多い。
その解決策の一つとして、AIカメラをアナログメータ前に設置して、メータの値を画像で読み取り、それをモバイルルータでデータレイクへ格納するという手法がとられているという。これにより、人的コストや業務時間が大きく削減される。
また、「製品の外観検査の省力化」も、“製造業DX”の事例としてよく耳にする。これまでは不良品を検知する際、従来の画像処理検査機では過検知が多く、その後に目視の検査をする必要があったため、この二度手間な工程を効率化しようという取り組みだ。
具体的な方法としては、たとえばGoogle CloudのVertex AIを活用した外観検査AIを導入し、不良と判定されたものを再度検知して良品を識別するような仕組みを構築している。これにより、目視検査の工数を約25%削減できた上、コストをかけてAIを学習させていくことで精度が高まり、削減率がさらに上がっていくことが期待されるという。
他にも、RPAとAI-OCRを活用した「伝票入力の効率化」や、振動データを活用した「故障予知・予防保全による工程改善」など、製造業独自の様々な施策が日本中で実施されている。
しかし谷口氏は、「たしかに『DX』として成果を生んでいる施策もあるが、現状ではデジタイゼーションやデジタライゼーション、すなわちデジタル化のみに留まっている企業も少なくない」と指摘する。なぜ、そうした事態が起こっているのか。