トップダウンでの変革推進アプローチが必要
変革がデジタル化でストップしてしまう理由は、デジタルツール導入やデータ取得の先にあるべき“目標の欠如”にあると、谷口氏は語る。
たとえば、データを可視化してから活用するまでには「①情報を取る」「②情報をつなげる」「③情報を共有する」「④情報を分析する」「⑤予知する・最適化する」というステップを進んでいくが、その際、「何を改善したいのか」「何を分析したいのか」を明確にしないうちに、先に「データを取得すること」「データ基盤をつくること」を始めてしまうケースがあるという。
もちろん、とにかくまずはスタートしてアジャイルな手法で迅速性を担保するという見方もあるが、目標が定まらないうちにプロジェクトを進めてしまうと、ステップを進めるうちに部門間での連携や、担当する業務の異なる職種間での壁を乗り越えられず、失速してしまうことが多い。ツールを導入・開発するIT部門から現場の製造部門や事業部門まで、異なる視点や領域を持つメンバー全員が協力して変革を前に進めるためには、北極星となる共通の目標が必要なのである。
こうした問題を踏まえ、谷口氏は「DXをより前へ推進していくためには、現場(ボトムアップ)の改善アプローチだけでなく『経営視点(トップダウン)でのアプローチ』も必要」だと主張する。どういうことか。
たとえば、某企業のとある工場で、“現場の改善アプローチ”により省力化を実現・成功させたとする。すると、その後に「さらなる増産のため、新たにスマートファクトリーを建てよう」となった場合、DXのポイントを心得ていない経営者は過去の工場であった省力化の成功体験に囚われ、既存の工場と同じ人材、ノウハウや仕組みなどを踏襲してしまいがちだ。
しかしスマートファクトリーなど、これまで経験がない新たな概念に挑戦するためには、たとえば「属人化を廃して生産性をあげる」などの“コンセプト=目指すべき姿”から逆算し、その実現に向けたKPI、KGIなどの目標値を新たに設定する必要があるという。これには経営の視点が欠かせない。
また、工場の横展開を図るとなれば、フィジカル空間での人員を最小化し、サイバー空間上で複数の工場の情報を管理するという考え方が出てくるだろう。実現すれば、グローバル展開を考えた時にも同様の工場をスムーズに立ち上げ、稼働後の運用も効率化できる。こうした戦略や見通しを描くのは、経営の役割である。
谷口氏は、「もちろん、業務改善という視点で現場のDXを牽引できる人材も必要だが、トップダウンで全社的にDXを見れる人材もいなければならない」と語った。