前提の変化を機会と捉え、ビジネスを継続・飛躍させる方法
以上、代表的な社会変化として「人口構造」、「働き方」、「技術発展」について見てきた。冒頭で述べたように「自社組織にとって重要な意味を持つ社会変化は何か?」と問いかけることが重要となる。
最後に、社会変化を活用して成功した例としてエルメスを紹介したい。
エルメスは、1837年にパリの馬具工房としてティエリ・エルメスによって創業された。エルメスが事業の方向性を大きく変えたのは、3代目社長エミール・モーリス・エルメスの時代だ。きっかけは自動車社会の到来にある。ヘンリー・フォードが1908年にT型モデルを開発。1913年にベルトコンベア式の生産法を確立し、本格的に大量生産が始まった。10数年間の生産台数は1,500万台以上。それまでの移動手段であった馬車は、完全に19世紀の乗り物となった。
大量生産が当たり前になれば、少量生産されたものに「希少価値」が生まれる。
幸い、エルメスには優れた能力を持つ職人がいた。馬具を製造していた頃から、職人による丁寧な品質管理が行われており、完璧な鞍づくりとして評価されていたのだ。彼らのハンドクラフトによる高級品。大量生産品が市場に溢れるほど、その高級品はより価値を高めるだろう。
エミールは社会の変化を的確に捉え、その変化を活用して成果を生み出した。彼の判断が的確だったからこそ、エルメスは今もなおブランドとしての地位を保ち、その価値を維持し続けているのだ。
私達も、エミールのように「社会の変化から機会を見出す必要」がある。激しい社会変化は一見脅威に思えるが、どこかにイノベーション実践のヒントが眠っている。社会を構成している前提に変化がないか、よく観察してみよう。
前回の記事でも紹介したように、イノベーションにはプロセスが不可欠だ。偶然を期待して生み出せるものではない。組織にいる人びとが、それぞれの才能や知識を相互に生かしあい、コレボレーションを行いながら実践する必要がある。
さらに、組織的にイノベーション行う理由も明らかである。これまでの組織では、たしかに多くの従業員が必要な場合もあった。しかしそれは、「同一の仕事を同一の条件でこなす」という物量のみが焦点となっていた。お互いの専門知識を活用しあって成果を出すという形ではなかった。今後は「知識」や「コラボレーション」といった、極めて抽象的な要素がビジネスの中心となる。
前回紹介したイノベーションの3段階に加え、社会的な変化による前提の変化を考えれば、偶然に頼ってイノベーションを期待することや、カリスマ性のある天才経営者によるイノベーション実践を期待することは現実的でない。一連のプロセスを互いに協力し合いながら、変化を機会とみなし行動することが求められる。
(参考文献)
- Brynjolfsson, Erik, and Andrew McAfee. Race against the machine: How thedigital revolution is accelerating innovation, driving productivity, andirreversibly transforming employment and the economy. Lexington, MA:Digital Frontier Press, 2011.(邦訳:『機械との競争』)
- Gratton, Lynda. the Shift: the Future of Work is already Here. Collins,2011.(邦訳:『ワーク・シフト』)
- Kotler, Philip, Hermawan Kartajaya, and Iwan Setiawan.『Marketing 3.0: FromProducts to Customers to the Human Spirit.』 Wiley, 2010.(邦訳:『マーケティング3.0』)
- ドラッカー, 2005『テクノロジストの条件』上田敦夫訳, ダイヤモンド社.
- 戸矢理衣奈, 2004『エルメス』新潮社.
- 山田登世子, 2006『ブランドの条件』岩波書店.
- 日本製紙連合会 Webサイト「製紙産業の現状>紙・板紙 需要推移」
- 日本紙パルプ商事株式会社 Webサイト